「古い自民党と決別」は困難

進次郎氏は清和会のドン森氏の後押しを受けている。進次郎を担ぎ出した菅氏は安倍派5人衆として処分された萩生田光一前政調会長と気脈を通じ、第二派閥を率いる宿敵の麻生太郎副総裁に対抗するため、安倍派と融和路線をとる。父純一郎氏のように最大派閥と全面対決するわけにはいかない事情が進次郎氏にはある。

裏金事件への対応が甘いと受け取られると、自民党総裁選には勝利できても世論は落胆し、10月解散総選挙で逆風にさらされるリスクがある。進次郎氏はそこで裏金議員の公認する条件として説明責任や再発防止の取り組みをあげて「厳正に判断」すると表明したが、現時点で「非公認」を宣言できなければ、いざ解散という時に踏み込むのは困難であろう。

進次郎氏は裏金議員について「選挙で信任を得るまでは要職に起用しない」とも強調したが、裏を返せば総選挙後は要職に起用するということであり、「古い自民党と決別した」ことにはならない。最大派閥との対決姿勢という面では父純一郎氏に遠く及ばず、進次郎フィーバーが一転して冷めるリスクがここに潜んでいる。

2006年6月30日金曜日、メンフィスにあるプレスリーの邸宅、をジョージ・W・ブッシュ大統領、ローラ・ブッシュ夫人とともに視察中の小泉純一郎首相
2006年6月30日金曜日、メンフィスにあるプレスリーの邸宅、をジョージ・W・ブッシュ大統領、ローラ・ブッシュ夫人とともに視察中の小泉純一郎首相(Photographs by Eric Draper/Wikimedia Commons

世代交代の高い壁

死角の二つ目は、世代交代の歯車が急回転することへの警戒感である。

進次郎氏は、党員票と国会議員票が半々を占める第一回投票でトップに立つのは確実視されている。しかし、10人以上が名乗りをあげる大乱戦で票が分散し、いきなり過半数を制するのは難しく、上位2人による決選投票にもつれ込む可能性が極めて高い。

現時点で2位に食い込んで決選投票に進むのは、国民人気トップの石破氏(67)、幹事長の茂木氏(68)、安倍支持層に人気の高市早苗経済安保担当相(63)らベテラン勢が有力視されている。決選投票に党員は参加できず、国会議員票が勝敗を決する。

自民党は当選回数を重ねて出世の階段を駆け上っていく年功序列型社会だ。ここで当選5回、43歳の進次郎氏が首相になり、「自民党は変わった」として同世代の中堅若手を次々に登用すれば、50~60代は追い抜かれて埋没してしまう。

そんな危機感が一気に広がり、決選投票では2位が誰になろうとも「進次郎阻止」の立場から2位の候補へ雪崩を打って投票する展開が党内でささやかれている。

麻生氏のシナリオは崩壊寸前

これに望みをつなぐのが、菅氏とのキングメーカー争いで劣勢に立っている麻生氏だ。麻生氏は当初、進次郎氏は父純一郎氏の反対で出馬できず、菅氏は石破氏を擁立するとみて、それならば茂木氏で対抗できると考えていた。石破氏は党員投票では優勢だが、安倍派と麻生派に嫌われ、国会議員票は伸び悩む。「石破氏vs茂木氏」の決選投票に持ち込めば十分に逆転可能と判断していたのだ。