ところが進次郎氏が一転して出馬し、シナリオが狂った。進次郎氏は国民人気が高いうえ、党内に敵が少ない。第一回投票で進次郎氏がいきなり過半数を獲得して勝負が決してしまうことを恐れた。

そこで茂木氏を擁立する戦略を断念し、候補者を大量に出馬させる乱戦に持ち込んで第一回投票を分散させ、進次郎氏の過半数獲得を阻止する戦略に転換した。麻生派からは河野太郎デジタル担当相、茂木派からは茂木氏、岸田派からは林芳正官房長官、若手代表で小林氏、女性代表で上川陽子外相の出馬を側面支援し、誰が2位になっても決選投票で各陣営を束ね、進次郎氏を逆転するシナリオだ。

ところが麻生シナリオは崩壊寸前である。河野氏の支持は広がらず、茂木氏は麻生氏に見捨てられたと受け止め、菅氏に接近した。出馬会見では岸田政権が決定した防衛増税や子育て支援のための保険料追加負担の廃止を打ち上げ、公然と反旗を翻したのである。

林氏はもともと麻生氏とソリがあわず、いつでも寝返りそうな気配だ。残るは高市氏との連携を目指すしかないが、そもそも麻生氏と犬猿の仲である石破氏が2位に入れば万事休すだ。

菅氏への警戒感

麻生シナリオは崩壊したものの、決選投票で急速な世代交代を嫌う50~60代が自発的に2位へ雪崩を打つ可能性は捨てきれない。石破氏、茂木氏、高市氏らベテラン勢が「決選投票にさえ勝ち進めば、進次郎氏を逆転できるかもしれない」と考え、熾烈な2位争いを繰り広げているのはそのためだ。決選投票の行方は読みきれず、予断を許さない。

菅義偉氏
菅義偉氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

最後の死角は、進次郎氏の後ろ盾である菅氏への警戒感である。進次郎政権が誕生すれば、菅氏がキングメーカーとして復権し、人事から政策まですべてを裏で取り仕切る「菅傀儡政権」になるとの見方が広がっている。

菅氏は、小泉純一郎政権で規制緩和などの構造改革を主導した竹中平蔵元経済財政担当相と極めて親密だ。自民党の規制緩和派の大親分で、外資を含む経済界の新興勢力が応援団である。これに対し、純一郎政権時代から竹中氏の規制緩和路線に対抗してきたのが、麻生氏だった。規制緩和に慎重な財務省などが麻生氏に乗る対決構図だ。「竹中氏vs麻生氏」の対決は、今日の「菅氏vs麻生氏」に受け継がれている。

進次郎氏は出馬会見で「聖域なき規制改革」を掲げ、ライドシェアの全面解禁に加え、これまでタブーとされてきた解雇規制の見直しに踏み込み、一年以内に実現すると宣言した。竹中・菅両氏が進めてきた労働市場の規制緩和を加速させる姿勢だ。

これに最も抵抗するのは、立憲民主党を支える連合だろう。連合はここ数年、麻生氏を窓口に政府与党に接近してきた。その連合を「抵抗勢力」に仕立て上げることで、立憲民主党や麻生氏の政治力を削ぐ狙いも菅氏にはあるに違いない。