しかし、日本企業を取り巻く環境は大きく変わった。収縮する国内市場を前提に、グローバル市場で勝ち抜くための攻めの合併の時代に入った。相手を一気に呑み込む外資系のM&Aも横行し、昔のように合併作業に時間をかけている余裕はない。前出のIT関連企業の人事部長は合併を軌道に乗せるには主導権をとり、統合作業を一気に進めることだという。
「合併前のデューデリジェンスの段階で自社を含めて相手企業のムダな部分や悪いところが見えています。リストラ計画をはじめ人事システムや賃金制度をどうするのか互いの戦略を巡ってものすごいせめぎ合いが展開されます。でも譲っては絶対にだめです。2つの制度を2で割ったような曖昧な仕組みは必ず破綻します。相手に嫌われてもいい。数年後は絶対に感謝されるのだという信念を持ち、必ず断行するんだという姿勢で臨まないとだめです」
合併発表では、トップ同士が2人でニコニコ握手しているが、内実はそんなものではない。実際の統合作業を経験した流通業の人事課長はこう語る。
「強引に押しまくり、給与の支払日や退職金規程もうちの方針を通しました。一方、勤怠などのシステムの管理は相手に譲ったのですが、帰ってから上司や同僚から『おまえ、何やっているんだ、バカヤロー』と怒鳴られる。こっちも頭にきて『うるせえ! 外野は黙っていろ』とやり返す。日々が内と外の敵を相手にしているような状態でした」
結果的に規模も大きい彼の社が大部分の主導権を握った。ちなみにその後、合併前の伊勢丹の人事担当者が彼に教えを請いに来た。彼は「結局、伊勢丹が三越を救うんですよね。表面上は仲よくやったほうがいいですが、三越に絶対に譲ったらだめですよ」とアドバイスしたという。