やる気を引き出す人事のやり方

変わるのは給与制度だけではない。合併効果を出すには重複する部署などの組織のスリム化も断行される。当然、ポストも半減する。新しいポストに誰を配置するかは合併企業にとって最も気を使う悩ましい問題である。前出のIT関連企業の場合は、当初は旧2社のたすきがけでポストを配分した。

「いくらこちらが主導権を持っているといっても人事はどうしても感情が絡みます。課長、次長、部長のラインポストを両社で分け合い、半年から1年は様子を見ることにした。それでも旧社の管理職のうち半分しかポストにつけない。元管理職は部下なしの担当課長という形で処遇。1年もすると管理職として本当に仕事ができるかどうかはわかります。2年目には最初に管理職についた相手先企業の社員の半分が、役割変更でその地位を降りましたし、3年目にはほとんど消えました」

その理由を人事部長はこう説明する。

「うちは最初から誰もが認める優秀な人材を候補に挙げましたが、相手は合併前の立場や情実に絡んだ人選をしてきたのです。同じ土俵で勝負するのですから、うちにとっては相手の管理職がひどすぎたという運のよさもあった」

あくまで信賞必罰による評価の結果である。むしろ3年間に管理職の若返りが進んだという。新人事制度を活用し、無能な管理職を降格させ、年功序列でくすぶっていた相手企業の優秀な若手社員を積極的に起用した。

「若手は合併を逆にチャンスととらえ、一生懸命にがんばる人もいます。前の会社で給与計算を担当していた社員が人事に来ましたが、仕事ぶりを見て、彼はいいなと思い、毎年昇進させました。逆にやり方としては、相手企業の若手の中からスター選手を生み出すことが大事なのです。『中高年はクビを切られているけど、彼は評価されて出世している』と相手企業の社員に思わせれば、士気も高まるのです」

気になるのは降格した中高年管理職の行く末だ。若手の管理職の部下になった人もいれば他部署に降格異動した人、系列子会社に飛ばされた人も少なくない。そのほとんどは3年後に実施された希望退職募集に応募し、会社を去った。