自宅にいるのに外国で暮らしているような気分になる

――脳科学的な子育ての観点以外でも、早期のバイリンガル教育の問題点はあるのでしょうか。

最も典型的なのは、親子の間で意思の疎通がしにくくなり、お子さんにフラストレーションが溜まるケースですね。

リビングルームに一人で座っている子供
写真=iStock.com/takasuu
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外国語メインで育ったお子さんは、外国語でのコミュニケーションがベースになります。しかし、外国語がそれほど堪能ではない親御さんはお子さんとスムーズな意思疎通ができません。言うなれば、お子さんは自宅にいるのに外国で暮らしている気分になってしまいます。その結果、お子さんがフラストレーションを募らせ、暴言や暴力となって爆発することもあれば、「親とは関わりを持ちたくない」と言って家出してしまうこともあります。

また、母語をしっかりと習得することは、外国語を使ったコミュニケーションをとることにも結果的に活きてきます。コミュニケーションには言語だけではなく、相手の表情から感情を読み取る「ノンバーバル(非言語)」なやりとりも含まれます。外国語話者も表情の読み取りはするので、単語や発音が多少おかしかったとしても、相手の表情が読み取れればコミュニケーションは成立するんです。

そういった意味でも、お子さんが小さいうちは、親御さんにとって最も親和性が高い言語に統一して、コミュニケーションをとってほしいと思います。

父親が子どもに話しかけるのを禁止する家庭も

――実際に外国語学習を優先的に行う家庭では、どのようなことを行っているのでしょうか。

私がこれまでに会った親御さんの中にも、お子さんを幼稚園からインターナショナルスクールに入れ、日常的に英語で話しかけているというお母さんが複数いらっしゃいました。その方たちによるとインターナショナルスクールによっては、日本人が入学できる条件として日本語が話せないことを挙げている場合があるそうです。なので、日本語のテレビはもちろんのこと、英語が苦手な家族は、お子さんに話しかけることを禁止することもあるそうです。

ネイティブスピーカーのようにスラスラと話せるわけではなくあくまでも、学校教育において英語の成績がよかった、あるいは仕事で少し英語を使っている程度の英語力しかない家族と英語だけで話す。こうした環境で育ったお子さんが成長したときに、親子間に亀裂が生まれないか勝手ながらとても心配しています。