50歳代の自殺者数が最も多い
アメリカでは、白人中年男性を中心とする自殺、薬物依存、アルコール関連疾患等による「絶望死」と呼ばれる死因が問題になっているが、日本でも自殺者数は2003年の3万4427名をピークに減少しているとはいえ、2023年でも2万人を超えている。
年齢別に見ると、50歳代の自殺者数が最も多く、次いで40歳代の自殺者数が多い。40~59歳が全体の35.8%を占めており、50歳前後の自殺者が多いと思われる。
そして、幸福度が50歳前後で最低になることを考えれば、幸福度と自殺に一定の関係があることが示唆される。
しかし、強調しておきたいのは、50歳以降は幸福度が平均としては上昇していることだ。
20歳以降、幸福度が下がり続け、50歳前後で最低になったとしても、その後、幸福度が上昇に転じ、60歳以降も高まることは、たとえある時点で人生に絶望しても自殺する必要がないことを示している。
「男らしさ」への呪縛が幸福度を押し下げる
男女別に見ると、女性は常に男性よりも幸福度が高いことが示されている。これも、『日本の幸福度』で「幸福度の性差については、男性よりも女性の幸福度が高いことは多くの研究で報告されている(p.9,23)」とあるように先行研究とも整合的である。
この背景には、おそらく社会的に形成された「男らしさ」へのこだわりが影響しているだろう。
その男らしさとは、「仕事をして十分な収入があること」「社会や地域での一定の地位を獲得していること」「優れた体格や自信のある態度」「家族を持ち、家を構えること」といったことであり、そのどれかに欠けていることが、幸福度を押し下げている可能性がある。
日本では上方婚と呼ばれる、女性よりも男性のほうが年齢、学歴、収入が高い組み合わせが多いことも、男らしさが男女両方に意識されていることを示唆している。
実際、令和4年(2022年)人口動態調査の「初婚夫妻の年齢差別にみた年次別婚姻件数及び百分率」でも、夫が年上の夫婦は53.4%と過半数を占めており、夫が3歳以上年上の場合は29.6%となっている。
令和4年度就業構造基本調査の第240-1表から、夫の所得が妻の所得よりも高い比率を計算してみると、夫の年齢が30歳未満の場合で64.6%、夫の年齢が30歳以上39歳以下の場合では87.0%となっている。
この男らしさの呪縛は、年をとっても圧力をかけ続け、子どもがいる場合は教育費がかかり、仕事でも責任が増し、かといって弱音もはけない50歳前後の幸福度を押し下げているのだろう。
女性も子どもがいる場合には50歳前後の苦労は男性と同じようなもので、その苦労の時期を過ぎれば、幸福度が再び上がっていく、という構造なのだろう。