学力には遺伝の影響がある
お金がなくても幸せに暮らしている人はたくさんいるが、人生を生きていくのにお金がないほうが良い、ということはなく、お金があったほうが豊かな生活を送ることができる可能性が高い。
そして、労働政策研究・研修機構が発表している「ユースフル労働統計2023 労働統計加工指標集」で学歴別の生涯賃金の推計を見ると、男性の場合、大卒は3億2000万円、高卒は2億6000万円でありその差は6000万円、女性の場合は大卒が2億5400万円、高卒が1億8900万円でその差は6500万円になる。
つまり、経済的に豊かな人生を送るためには、大学に行けるなら行った方がいい、ということになるが、大学に行くには一定の学力と経済力が必要になる。
そして学力には遺伝の影響がある。長年、行動遺伝学の研究を続けてきた慶應義塾大学名誉教授の安藤寿康の著書『遺伝マインド』には、タークハイマーによる行動遺伝学の三原則が記載されている。それは、①遺伝の影響はあらゆる側面に見られる。②共有環境の影響はまったくないか、あっても相対的に小さい場合が多い。③非共有環境の影響が大きい。というものだ。共有環境とは家庭の子育て環境のことであり、非共有環境とは、家庭外の子どもの置かれた環境のことで、簡単にいえば、どんなお友達に囲まれているか、ということだ。
世界的な優生学による命の選別に対する批判から、こうした遺伝に関する話はタブーだったが、近年では、野球選手の子どもの運動神経が良いのと同じように、学力にも遺伝の影響があることが社会の認識として広まりつつある。
「どんな友達に囲まれているか」が学業成績に影響する
安藤氏の著書『遺伝マインド』には、遺伝的には全く同じ形質を持つ一卵性双生児を比較することで遺伝の影響を計測した行動遺伝学による研究成果が記載されている。
さまざまな心理的・行動的形質に対する遺伝と共有環境、非共有環境の影響は異なるが、例えば以下のようになっている。
言語性知能とは、日本語のような母語の能力であり、家庭の子育て環境の影響が非常に大きい。子どもに読み聞かせをすることや、子どもと一緒に本を読む習慣を付けることは、子どもの言語的能力を確かに上げるのだろう。
しかし、学業成績では、家庭の子育て環境の影響は17%と小さく、遺伝が55%、子どもがどんな友達に囲まれているかという非共有環境の影響が29%と大きくなる。
一方、スポーツは85%、数学は87%、音楽に至っては92%が遺伝の影響となり、家庭環境の影響はゼロという結果が示されている。