水災補償を契約していなければ保険金も出ない

物がなくなってもまた買えます。しかし、写真というのは、やはり特別なのです。チリチリパーマをかけた若かりし日の母の姿をとどめた、昭和の写真がなくなるというのは辛い……。これが水害なのです。

思い出が消えてしまう。ハザードマップをちゃんと見ておけば、と悔やまれてなりません。片付けと並行で家を更地にして新築するのか、リフォームするのか、他の地域に転居するのかを決めていきます。

しかし、ここで火災保険の水災補償を契約していなければ、保険金が出ません。義援金だけではとても家を建てられないので、二重ローンを抱えなければ、転居新築をすることもできません。

また、大工さんの数が足りないので、住宅再建には相当な時間を要します。わずかに残った家財を狙う窃盗団も現れます。大工さんの知り合いは、仕事道具である工具が盗まれてしまったそうです。そうしたことから、避難所に入らず、自宅の2階で寝起きしながら、家屋の再建を図った住民もいます。真っ暗な街に灯りがともることがない。電気のある夜景に慣れた目には、車で真備町を通り抜けるときに家が建っているのに真っ暗な街の異様さを感じたことでしょう。

家財道具を運び出せても、洗うための水が出ない

さて、被災後は私が当時勤めていた会社の同僚が、被災してからすべきことや参照すべき情報サイトを教えてくれ、日ごとの作業行程を組んでくれました。その上で、「金藤さんは被災者本人しかできないことに集中する。息子さんは現場の指示を行う総監督的な役割をやってもらおう」などと役割分担を決めるように助言もしてくれました。

被災者本人しかできないことというのは、たとえば代車を素早く手配したり、り災証明書を役所に取りに行ったりすることです。また、貴重品だけでなく、家族との思い出の大事な品々も手元に集めることは本人にしかできません。

一旦泥まみれになってしまうと、ボランティアで来ていただいた方たちには見分けがつかず、災害ごみとして廃棄されてしまいます。息子の運動会の動画や旅行の記録もそうです。「でもこれを残してほしい」と指示をしなかったので仕方ありません。

片付けでは、合板で作られた家具は水を含んで膨れ上がってしまい捨てることになるのですが、1枚1枚のしっかりした板で作られた家具はまだ使えます。泥まみれの鍋や食器も洗って消毒すれば使えます。細かい泥が固まる前に水で早く流したいのですが、被災して水や電気が止まっているため、洗えません。