「トランプ政権にこんな優秀な男がいたのか」

NSCアジア上級部長として、対中国政策を含む政権のインド太平洋政策を担当したのち、2019年から2021年まで国家安全保障担当大統領副補佐官を務めた。同補佐官とは一度だけ、共通の友人の紹介で彼のオフィスで会ったことがあるが、「トランプ政権にこんな優秀な男がいたのか」と思うほど、見識と能力の高さに感銘を受けた覚えがある。

米国議会議事堂
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余談になるが、ワシントンでは新政権が発足するたびに外国大使館員がすべきことがある。それは、ポッティンジャー氏のように、ホワイトハウス高官の政治任用職に登用される前に、その人物と個人的な友人関係を築くこと。そのためには将来「大化け」する優秀な人材を他の誰よりも早く見出し、友人となり、自宅に呼び、できれば配偶者とも仲良くなる必要がある。

誰でも簡単にできることではない。競馬で言えば、「万馬券」を、レースの1年も前から当てるような確率だ。幸い、筆者もワシントンで数人ながら本当の友人と知り合えた。一人は副大統領の安全保障担当補佐官、もう一人が中東担当のNSC上級部長だった。2024年も大統領選挙の年、ワシントンの各国大使館の若手外交官の奮闘が目に浮かぶ。

ボルトン「暴露本」が描いた日米外交の舞台裏

NSCの話が出たついでに、トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏の回顧録(邦訳『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』朝日新聞出版)の話をしよう。トランプ政権の後半の主要外交課題を、これほど詳細、かつ率直に書いた回顧録はおそらく他にないだろう。内容が内容だけに、日本では「ボルトン回顧録は、再選濃厚から一転して逆風が吹いていたトランプ氏に『とどめの一撃』か」といった報道すらあった。

だが、この回顧録の最も凄いところは、従来はほとんど書かれることがなかった日米外交の舞台裏をボルトン氏が米側の視点で生々しく描いていることだ。ホワイトハウスの国家安全保障担当大統領補佐官が書いた回顧録は少なくないが、この種の書籍で日本に関して多くのスペースを割いた著作は決して多くない。

たとえば、ヘンリー・キッシンジャー氏のWhite House Yearsは全1521ページのうち、日本への言及は事実関係だけの160回、佐藤栄作首相が95回だった。オバマ政権でNSC補佐官だったスーザン・ライス氏の回顧録は全534ページながら、日本への言及はわずか10回、日本の首相に触れた箇所はゼロだった。まあ、普通はこんなものである。