人口約8500人の徳島県海陽町の個人商店「ショッピング大黒」が、「四国一ホットなスーパー」として県内外から客が訪れるほど人気だ。何がウケているのか。ライターの甲斐イアンさんが取材した――。

オーガニック商品がずらりと並ぶ田舎の商店

徳島市内から車で約1時間40分ほどの場所に、四国のみならず全国から話題を集める「商店」がある。

サーフショップや民宿が並ぶ国道を外れて、町中の細い路地を進む。徳島県最南端の町、海陽町にある創業54年のローカルスーパー「ショッピング大黒」だ。

ショッピング大黒の店頭にはその日のお買い得品が並ぶ
筆者撮影
ショッピング大黒の店頭にはその日のお買い得品が並ぶ
ショッピング大黒の周辺は古い街並みが広がっている
筆者撮影
ショッピング大黒の周辺は古い街並みが広がっている

店頭には「お買い得!」の文字とともに野菜や日用品が平積みにされ、店内には生鮮食品や調味料が隙間なく並ぶ。お惣菜は小分けにされて100円から売られていた。

のんびりとした、一見なんの変哲もない田舎町の商店だが、奥のスペースに目をやると少しその雰囲気が変わる。

棚には国内外から集められたオーガニックワインがずらり。なかには3万円を超えるボトルもある。その横には「淡路島おのころ雫塩(1kg3200円)」「キルギス産ホワイト・ロー・ハニー(250g1998円)」など自然食品が300種類以上。その区画だけ都内の高級スーパーのようだ。

オーガニックコーナーは専門店並みの品揃え
筆者撮影
オーガニックコーナーは専門店並みの品揃え

海陽町は人口約8500人、高齢化率は46%を超える典型的な過疎の町だ。

「こんな田舎町の商店で高級オーガニック食品?」と疑問が湧くが、これが売れているのだ。

店内を見渡すと、地域の高齢者はもちろん、金髪の青年や会社員風の男性、若い女性客がおしゃべりしながら買い物を楽しんでいる。商品だけでなく客層もバリエーションに富んでいた。

廃業寸前の商店を立て直した1人の素人

「この塩は淡路島にいる僕の友人が、海水を薪と鉄釜で炊き上げて作っているんです。棚のワインは全部オーガニックワイン。世界で5人しか購入する権利がないボトルもありますよ」

一つひとつの商品を大事そうに手に取り説明してくれるのが、ショッピング大黒を経営する岩崎致弘ちひろさん(46)だ。

岩崎さんが一つひとつこだわって集めた商品が並ぶ
筆者撮影
岩崎さんが一つひとつこだわって集めた商品が並ぶ
店内の雰囲気は普通の田舎町の商店
筆者撮影
店内の雰囲気は普通の田舎町の商店

出身は神奈川県横浜市。東京で長年、メジャーアーティストが所属する音楽事務所の取締役を務め、2017年に海陽町に移住してきた。2020年に創業家の2代目から担い手不足に悩むこの商店を引き継ぐまでは小売店の経験はゼロだった。

しかし事業を継承してからわずか1年で売上は約20%アップし、事業の多角化にも成功。4年目には会社全体で黒字化を達成した。従業員数も6人からグループ全体で30人と5倍に増やし、「地域のインフラ」であるローカルスーパーを維持する仕組みづくりに成功している。独自の商品ラインナップと取り組みで「四国で一番ホットなスーパー」としてメディアの取材を受けることも多い。

なぜ地元出身者でもない岩崎さんが、畑違いの業界に挑戦し、田舎町の個人商店を繁盛店に立て直すことができたのか。