「家が一軒建つほど」の借金を背負いながらもスタート

岩崎さんが受け継ぐ前のショッピング大黒は、大黒さんが肉場に立ち、母親が魚を捌いていた。大黒さんがスーパーを譲ると聞き、大黒さんの妻は「え、聞いてへん」と最初は驚いたというが、時には寝泊まりしながら懸命に仕事を覚えようとする岩崎さんを、率先してサポートした。

そうしてたくさんの会話と準備期間を経て、大黒さんとの出会いから約7カ月後の2020年3月にショッピング大黒はリニューアルオープンした。

事業承継初年度は、仕入れ用の冷蔵機能付きトラックや室外機など機材の買い替えや補充にお金が必要で、最終的に「地方で家が一軒建つくらいの金額」の融資を受けた。

「1年目から多額の借金を背負っちゃって、ちょっと大丈夫かなと思うこともありました。でもやっぱりワクワクの方が大きかったですね」

商品棚を1メートルずらしただけで常連客が消えた

決して順風満帆とは言えないリニューアルオープンの矢先、岩崎さんはすぐに「ヨソ者」の洗礼を受けることになる。

厨房と売り場は隣同士
筆者撮影
厨房と売り場は隣同士

リニューアルオープンしてすぐに、岩崎さんは大黒さんからあることを聞かされた。

「前はよく来てくれていた常連さんの姿が、さっぱり見えないんだ」

聞くと、その数は「10人どころの話じゃない」という。

どうして買い物に来てくれないんだろう。岩崎さんは当時、誰が常連客かそうでないかの区別もつかなかったが、常連客の名前と住所を聞き、直接行って理由を聞いてみることにした。すると返ってきたのは次のようなものだった。

「いつも置いてあるところに商品がなかった」
「刺身の厚さが変わった」
「いつもと違う商品がたくさん置いてある。もう私らが行く店じゃなくなった」

もともとあった商品はひとつも減らしていない。棚の位置をずらしてもせいぜい1メートルくらいだった。「結局、知らん奴がやってるからってことで、不安だったんでしょうね」と岩崎さんは振り返る。