常連客の自宅を一軒一軒訪ね歩いた

「落ち込んだこともいっぱいありましたよ。でもそこで止まっていても状況は変わらないから、まずはやれることをやろうって思ったんです」

海陽町は海、山、川がそろった自然豊かなまち
筆者撮影
海陽町は海、山、川がそろった自然豊かなまち

岩崎さんは前向きだった。営業の隙間時間を使って、常連さんの家を一軒一軒訪ね歩き、挨拶をして、他愛のない話をして、また来てくださいねと声をかけ続けた。棚の配置や新しく並んだ商品の説明をすることもあった。

「田舎町では近所の人が急に訪ねてくることはよくあること。僕が行っても特に驚かれることはなかったですね。たいした話をしたわけじゃないんだけど、でもきっと、そういうのが大切なんですよね」

コロナ禍で広がったデマ

お宅訪問の甲斐あって、徐々に常連客は買い物に来てくれるようになった。しかしほっとしたのも束の間、すぐにコロナ禍が始まった。

高齢者が大半を占める田舎町では、新型ウイルスの蔓延は地域の死活問題だった。町がピリピリした空気に包まれるなか、「東京から来た人」というイメージが先行していた岩崎さんの周りでは、「コロナに罹っている」「町外から人を呼んでいる」と事実とは異なる噂が付いて回った。

噂の影響で客足は遠のき、事業承継前は1日400組ほどだったお客さんは200組台に激減。売上は半減した。