移住してくる人は年収数千万円の「プチ富裕層」

上海に住む友人に聞くと、「もともと上海出身者だったら、たいていマンションを2軒くらい所有している。そのうちの1軒を売り払い、そのお金を元手に、一刻も早く海外に移住したいという人が続出。移民コンサルタントに相談する人が急増しました」と語っていた。この現象は中国語で「潤(ルン)」〔英語のrun(走る)と同音であることから転じて、移住、移民などの意味〕と呼ばれて、隠語のように使われた。

それから1年後の23年4月、海外への渡航制限が解除されると、その動きはさらに加速した。中国人富裕層の海外移住の手段として多いのが、経営管理ビザを取得して来日することだが、同年、同ビザを取得した中国人は1万9334人と、15年(8690人)の2倍以上に増加した。

彼らの日本移住ブームが日本の不動産価格の上昇を押し上げている一因であることや、彼らが日本の不動産を「爆買い」していることが日本で報道され始め、テレビ番組などでも紹介されるようになった。

彼らは具体的に、どのような人々で、どのような特徴を持っているのか。筆者が取材したところ、富裕層を中心に、プチ富裕層、一部の中間層が来日している。冒頭で紹介した男性の所得は日本円にして数千万円程度あるプチ富裕層だ。ネットを使ったビジネスをしている自営業者で、海外にいても仕事ができると話していた。日本に居を構えたが、日中を頻繁に行ったり来たりしており、SNSにもさかんに旅先での様子を投稿している。

都内で目撃されているジャック・マー氏も移住?

アリババグループの元CEO、馬雲(ジャック・マー)氏が都内で目撃されるようになったのも23年だ。22年に約半年間、東京近郊に滞在していると報道され、都心にある中国人富裕層専用のクラブに出入りしたり、ソフトバンクの孫正義氏が所有する箱根の別荘、スキー場などに足を運んだりしているといわれた。

23年には東京大学の東京カレッジ客員教授に就任。そのためか、再び、在日中国人のSNSに「銀座にジャック・マー氏がいた。SPもついていた」などの目撃談が増えた。ほかにも、本人が「移住」に関して公表を控えたり、否定したりしているが、大手企業の元経営者、重役、芸能人などが日本に続々と移住しているという噂も耳にする。

中国の富裕層の明確な定義はないが、年収は日本円に換算して1億円以上、プチ富裕層も年収2000万円以上あり、年代は20~70代までと幅広い。何らかのビジネスで財産を築き上げ、40代前半でセミリタイアし、日本で悠々自適の生活を送るという人も少なくない。筆者は22年以降に日本移住した中国人数人に会って話を聞いたことがあるが、彼らはそれまでの人生を半ば「捨てて」、日本で第2の人生をスタートさせようとしている。