2種類のひとり言を駆使アイデアを引き出す

あなたは「ひとり言」を言いますか? 私はいつもブツブツつぶやいていると言われます。

「あれはどこに置いたっけな……確か昨日ここで使ってそのあとここに……。お、あったあった!」
「ここが違うなぁ……前はこうしたらできたんだけど……やっぱりダメか。そしたら次はこうして……」

ひとり言にしては明瞭なので、傍にいる人は自分が何か言われたと勘違いすることもあるようです。「え、何か言った?」と聞き返されることもしょっちゅうです。

あまりにひとり言が多いと「大丈夫ですか」と心配されることもあります。心理学では「不安やストレスがひとり言として発露する」と解釈されることがあるようです。ほかにも気味悪がられたり、迷惑がられたりと、ひとり言は好意的な捉え方をされないケースが多いようです。

鉛筆を持った手で顎を触れている若い男性
写真=iStock.com/coltsfan_050705
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しかし、脳科学者としての私の見解は正反対。ひとり言には脳を覚醒させ、記憶を整理・定着させ、眠っていた能力を伸ばす効果があるからです。私は自分の口から出てくるひとり言をいつも楽しみにしていますし、アイデアを引き出すために意図的に使ってもいます。

ただし、それにはちょっとしたコツが必要です。今日はひとり言を上手にコントロールして、クリエーティブな仕事に生かすためのヒントを考えてみたいと思います。

さて、皆さんは脳に左右で異なる特性があることはご存じでしょう。「右脳」はイメージや直感など感覚的な情報を、「左脳」は言語や計算など論理的な思考を司ります。

また脳には1000億以上の神経細胞がありますが、それらは働きごとに集団を形成し、互いに情報のやり取りをしています。私は「ベクトル法fNIRS(※)」という技法で脳のどの領域がどんな役割を担っているかを調べ、その領域を「脳番地」と名付けました。

※編集部註・脳の活動を脳酸素交換量(COE)と脳血流(CBV)の同時計測によって可視化する技術。1991年に加藤俊徳医師が発見した。

脳番地は全部で120ほどありますが、「思考系」「感情系」など大きく8つの系統に分けることができます(図を参照)。例えば「右脳の感情系脳番地」は映像や雰囲気など、形のない情報を感受して、感情や気分を生み出します。対して「左脳の感情系脳番地」は言葉や文字をもとに、自分の意思や気持ちを明確にします。

【図表】脳番地は大きく8つの系統に分かれる
図版作成=中川原 透
※加藤俊徳氏への取材をもとに編集部作成