有権者の意思が無視されていないか
一方、「極右」と言われているAfD(ドイツのための選択肢)は、現在、ル・ペンとは必ずしも良い関係ではないが、それでも国民連合の躓きにはショックを受けているだろう。9月に旧東独の3州で州議会選挙が行われるが、そこでの躍進が確実視されているAfDにとって、お隣でやはり勝利が確実視されていたル・ペン氏が沈んだことは、いわば不吉な兆候だ。しかもその沈没は、左派連合がル・ペン氏の台頭を妨害するという目的で結集し、異端の選挙テクニックを使った結果だったのだから、なおのことだ。
実はドイツでも、地方自治体の選挙などで、AfDを勝たせないという目的だけのために、左派や保守がなりふり構わず団子になって突進してくるという状況がすでに起こっているが、今、この疑問符付きの方式がフランスの総選挙で成功モデルになったことで、今後、ドイツの重要な選挙でも、AfD撲滅のために堂々と使われる可能性が出てきたと言える。
そもそもこうなると、多数の有権者の意思が反映されず、また、政策の一致していない党が混淆して政権に就くため、政治が機能不全になるのだが、これまでそれらの問題点は、「民主主義の防衛」とか「ナチ打倒」といったスローガンで覆い隠されてきた。しかし今後、これが常道になるとすれば、果たして民主主義の原則に沿うのだろうか。
選挙で共闘した社会党はさっそく離脱?
さて、今後のフランスの動きだが、現在、急に浮上してきたのが、社会党の「新人民戦線」からの離脱の可能性だ。つまり、選挙のためだけに暫定的にメランション氏と共闘していた社会党が、それを蹴飛ばして、マクロン氏と大連立を組むのではないかという臆測である。しかも、大連立の首相候補として挙がっている名前が、社会党のフランソワ・オランド前大統領。
保守と左派の大連立はドイツではよくあり、例えばメルケル政権4期のうちの3期は、キリスト教民主/社会同盟と社民党との大連立だった。そして、その間にドイツは次第に左傾化し、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟が、社民党の政策をどんどん実施していくというパラドックスが起こった。
一方のフランスでは、大連立はこれまであまり例がなかったが、ただ、今回は本当にあるかもしれない。ただ、もしそうなった時のメランション氏とその支持者の怒りは、想像しただけで恐ろしい。いずれにせよ、フランスではサプライズはまだまだありそうだ。