怪気炎を上げる杉浦を笑う後輩

違和感はあるが、言葉にできない。容赦なく迫る返答の期限を前に、杉浦は思い切った策に出た。

「社内の人間に片っ端からこのプロジェクトに対する違和感をぶちまけてもらったんです。総勢で100人にはなったはずです」

いつも“ワイワイガヤガヤ”のスーパードライチームの梶浦瑞穂氏、岡村知明氏、杉浦克典氏、木村宏之氏、東海辰弥氏。

相手への気配りから業務で忙しくないときを狙ったというその時間帯は、まさしく「夜討ち朝駆け」。早朝、誰もいないオフィスに出社して、人が来るのを待っていた。

「社内には飲食店を回っている経験者がたくさんいましたからいろんな意見が出てきました。『広告塔なんだからタダにしたら』『スーパードライといえば、鮮度。鮮度、せんど、せんぎょ、鮮魚! 新鮮なサバを出すのがいい』というのも……」

そして、ついに違和感への言葉が見つかった。

「つまり、僕が持っていた違和感とはこうだったんです。スーパードライを若い人に飲んでもらいたいので、外観をかっこよくしたいのだけれど、ハイグレードにしたいわけではない」

持ち前の人当たりのよさを武器に、エクストラコールドBARのプロジェクトには、いつしかアサヒビールの社員100人の叡智が結集していた。そしてついに10年5月21日、『アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR』がオープンした。徹底的にこだわった外観には、マイナス2℃を指した温度計が存在感を出している。

本当にお客が来るのかという杉浦の心配をよそに、店の前には長蛇の列ができた。杉浦は大きな体を震わせて男泣きしていた、というのはそのとき現場にいた同僚の証言。

以来、9月まで行列が途切れることはなく、エクストラコールドBARは銀座の新しい名所のひとつとなった。