中学受験業界で「深海魚」と呼ばれる子どもたち

中学受験を経て中高一貫校に進学したものの、成績がさっぱり伸びずに下位をさまよう子がいます。そういう子を中学受験業界では、ひそかに「深海魚」と呼んでいます。暗い海の底にひっそりと暮らす魚と、成績低迷でスポットライトが当たることなく学校生活を送る姿が重なるからです。なんとも嫌なたとえですね。しかし、実際そういう子はどこの学校にも一定数います。さらに状況が悪くなると、不登校になったり、退学したりしてしまう子も……。

中学受験はわずか1点の差が合否を分けると言われています。そのくらい子どもたちの学力レベルは団子状態なのです。それなのに入学後に差が開いてしまうのはなぜでしょう?

それは、これまでの勉強のやり方に問題があったからです。深海魚と呼ばれる子どもたちは、中学に入った時点ですでに勉強に疲れ、勉強嫌いになっていることがほとんどです。そういう家庭に共通していえるのは、「勉強のやらせ過ぎ」と「間違った勉強観の植え付け」です。

「きちんとやりなさい!」
「もっと頑張らないと、合格できないわよ」
「今、頑張れば、後がラクになるんだから」
「なんでこんな問題が解けないんだ!」
「こんなに偏差値が低い学校を受ける意味があるのか?」

などと、極端な叱咤しった激励で、やみくもに勉強をさせてしまうのです。

勉強中、頭を抱える子どもと、腕を組んで後ろから見ている母親
写真=iStock.com/Hakase_
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中学に入った途端に勉強の習慣をやめてしまう

すると、子どもは親から与えられた大量のタスクを消化していくために、とにかく終わらせることに気持ちが向いてしまい、「納得しながら覚える」「自分の手を動かし、頭を働かせながら考える」といった正しい勉強のやり方が身に付かないまま、受験を終えてしまいます。そして、「勉強は楽しい!」という経験に乏しいまま、「勉強」=「嫌なもの」「つらいもの」になってしまうのです。

そうやって勉強してきた子は、入試は突破することができても、すでに息切れ状態になっていて、中学に入った途端に勉強の習慣を放り投げてしまうのです。しかも、その頃になると思春期まっただ中に入り、親の強制力が効かなくなります。小学校のうちは親の言うことを聞いていた子も、自我に目覚め反発するようになったり、そのまま無気力になってしまったりします。すると、1年もしないうちに真っ暗な海の底をさまよう深海魚になってしまうのです。

この年齢の子どもにとって、自己肯定感はとても重要です。成績の良しあしは子どもの自己肯定感に直結します。ここが崩れ落ちてしまうと、「友だちにばかにされる」と友だち作りに消極的になってしまったり、「どうせ俺(私)なんか……」と投げやりな行動に出てしまったりして、学校生活自体を楽しめなくなってしまいます。わが子の幸せのためにと選択した中学受験で、このような状況になってしまっては本末転倒です。