さらに研究チームが生産コストを計算したところ、工業規模の大量生産では、植物からHMOを作ると現在の主流である大腸菌を用いる方法よりも安価になる可能性が高いことが示唆されました。大腸菌の場合は、副産物を取り除く課程にコストがかかるからだそうです。

シー博士は「さらに研究が進み、すべてのHMO母乳オリゴ糖を1つの植物で作れるようになったら、植物を粉砕してすべてを同時に抽出し、それを直接、粉ミルクに加えることができます」と目標を語ります。

最近は、HMOは乳児の栄養分として大切なだけではなく、「プレバイオティクス」であることも注目を集めています。プレバイオティクスとは、ビフィズス菌などの有用菌(プロバイオティクス)のエサとなる物質で、食物繊維やオリゴ糖がこれにあたります。

腸内フローラ(細菌叢)は近年、腸内環境を整えるだけでなく、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、免疫調節機能、脳の認知機能やうつ病の発症などにも関与していることが研究で示されています。つまり、HMOが大量生産できると、大人のための機能性食品やサプリとしても役立つ可能性があるということです。

今回はアメリカ発のHMO作成の新技術を紹介しましたが、日本は以前からHMOの製造や利用、応用に関する研究で世界をリードしています。赤ちゃんの成長や大人の健康のために、ぜひ、早期の製品化を目指してほしいですね。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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