日本テレビと小学館が公開した漫画「セクシー田中さん」のドラマ化と原作者の死去についての調査報告書に注目が集まっている。テレビの取材を続けてきたライターの村瀬まりもさんは「報告書の段階ではあるが、ドラマ関係者なら誰でも思いつく、今すぐ実行可能な再発防止策が示されていない。結局は、ドラマ制作を中止せず進めなければいけないというテレビ局の組織の論理と、メディアミックスによる売り上げ増という出版社の利益追求が優先されている」という――。
日本テレビが公表したドラマ「セクシー田中さん」に関する調査報告書=2024年5月31日、宮武祐希撮影
写真=毎日新聞社/アフロ
日本テレビが公表したドラマ「セクシー田中さん」に関する調査報告書=2024年5月31日、宮武祐希撮影

ドラマ関係者なら誰でも思いつくシンプルな再発防止策

人ひとりが死んだというのに、結局、どっちも懲りていない。漫画『セクシー田中さん』の作者・芦原妃名子氏がドラマ化の過程で心労を重ね、それに関連したネットでの炎上を経て死に至るまでの調査報告書を日本テレビ小学館がほぼ同時期に発表した。そこには、もちろん今後の対策、改善点についても述べられているのだが、日頃、テレビまわりの取材をしている身としては、首を傾げざるをえなかった。そこでは、抜本的な再発防止策が示されていない。

今後は、漫画や小説のドラマ化の際、出版社・原作者とテレビ局間で詳細な条件を記した契約書を結ぶ(小学館の報告書には「原作利用許諾契約書」とある)。その契約の場に弁護士を入れる。もちろん、そういったガバナンス強化はしなければならない。しかし、今回の報告書では、それ以前に、現場レベルで今すぐできるはずの確実な対策がスルーされてしまっている。

それは、企画時点で必ず最終話までの台本を用意し、原作者に見せ、その許可をもらったのちに映像化契約を結ぶということ。さらには、キャスティングでも合意を得てからの契約が望ましい。

つまり、あくまで原作者がイニシアチブを取り、脚本や配役に納得できなければドラマ化を許可しない、企画中止にできる状態を作るということだ。

【図表】ドラマ制作におけるテレビ局と原作者の関係
日本テレビ、小学館の調査報告書よりプレジデントオンライン編集部作成

日本テレビの報告書でも「台本完成案」が示されている

日本テレビの報告書には、ちゃんと下記のような記述がある。

原作者と制作サイドで齟齬が生まれない最も有効な手段は、撮影前に最終回までの台本が完成していることである。そうすることで、原作者は映像化にあたり、制作サイドが描こうとしている全体像を正確に知ることができる。また、制作サイドも原作者が合意した台本に基づいて演出できるため、双方の納得感が得られることになる。ヒアリングでも「最終話まで脚本を作って撮影に臨んだ方が役者も安心ではないか」(日本テレビ制作幹部)、「早めの企画決定やプロット作成、準備期間を設けることは重要」(日本テレビプロデューサー)等の声があがっている。近年、ドラマはリアルタイムで視聴されることに加えて、事後に配信で見られることも少なくない。視聴者の生の反応を見てドラマの構成を変えていった時代は変わりつつある。

(日本テレビ「セクシー田中さん調査報告書」)

これは実にシンプルなガイドラインだ。弁護士も法務の人間も分厚い契約書も必要なく、単純に今すぐ「自社ルール」にすればいい。日本テレビは、そのことこそを再発防止策として打ち出すべきだったのではないか。