「20時までには退社する生活がしたい」と退職

入社前に多くの社員たちが21~22時まで働いていることは知っていたし、それを納得の上入社したものの、いざ自分が働いてみると、平日は自分の時間が全く取れない生活が、こんなに味気のないものだとは思わなかったようでした。

夏に大学の同級生たちと会う機会が何回かあったが、自分は2次会からしか参加できなかったこと、残業時間が長くはない会社に入社した友人たちがうらやましく思えたことなども教えてくれました。

「僕は、仕事の忙しさや人間関係の大変さは耐えられると思っているんですけど、20時までには退社する生活がしたいんです」とA君は本音を語ってくれました。

その後何回か長時間労働者面談でA君と会うことはありましたが、どうしても残業時間について、割り切って考えることができないようでした。この会社で数年頑張れば得られる知識、実力、今後のキャリアの強みなどのメリットは十分わかるものの、“今”この生活に納得や満足はないといつも言っていました。

秋に1週間の有給休暇を取りましたが、休暇が明けても出社せず、同僚が連絡したところ、賃貸を解約し実家に戻ってしまっていました。そして、産業医面談では、第2新卒として今度は残業のない職場を探したいという言葉を残し、A君は年が変わる前に退職していきました。

後に人事に聞いた話では、残業が耐えられないという退職理由を聞いた部門長や先輩たちは、誰一人として止めることはなかったようでした。

ベンチに座って頭を抱えているビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
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上司や同僚に「諦められる」ケースが増えてきた

仕事は、自分が望まない場合でも続けなればならないでしょうか。

産業医の私の答えは「否」です。望まぬ仕事をやっている時、ヒトのココロはもろく、ちょっとしたストレスでもしなやかに対処できないこともあります。メンタル不調になった時、自ら退職(転職)という選択肢を選ぶことができる人はすぐに不調から治ることを私はたくさん見てきました。健康を害してからでは遅いですから、冷静に考えた上で辞めるのであれば産業医としてはむしろその判断を応援したい気持ちです。

しかし同時に、「もうちょっと事前に考えられなかったのか」「もう少しの期間頑張れば、その中で見えてくるものがあるのではないか」、等々思ってしまうこともあります。それは若い社員に多い傾向にあると感じます。

多くの会社では新入社員は職場で期待されています。できたことは褒められ、落ち込んだ時は親身になり話を聞いてもらえ、周囲は若い社員が少しでも早く成長することを望んでくれています。しかし、たまに上司や同僚たちも諦めてしまうことがあります。

A君の場合がそうだったと思われますが、近年このように諦められてしまうケースが若い社員で散見されるようになってきました。最近の就職事情は売り手市場と聞きますから、この傾向は続くと思います。