たとえばある会社でプレス部品を調達するとしよう。こういう場合、調達先メーカーには「1ミリ±0.1ミリ」という指示が出される。これは1ミリから±0.1ミリの誤差で製造するようにとの意味だが、実際には指示より精度の高い±0.05ミリ程度でメーカーは製造する。そこで「0.95ミリ±0.05ミリ」で発注すると、誤差の範囲を当初の指示内に収めながら、プレス部品の材料費を5%コストダウンできることになる。
実は5%という数字は極端な例で、実際にはもっと細かくコストを削る努力がなされている。食品は原材料を10%減らすと消費者に気づかれてしまうが、1%なら誰にも気づかれない。こうした人間の感度の誤差を利用したコスト削減は、食品業界をはじめ製造業でかなり行われている。
「安いところから買う」は、サプライヤーの変更や集約によるコスト削減である。たとえば部門ごとに購入していた出張チケットを全社で集約すると、1部門で購入するよりバイイングパワーが向上し交渉力がアップするわけだ。
「安くする」は見積もりや適正価格の確認、サプライヤーの工程改善、支払い条件や物流の変更によるコスト削減である。
とくに見積もりの確認がきちんとできていない会社は少なくない。担当者が代わった途端、何の根拠もなく急に値上げがなされていたり、ほぼ類似したものを購入しているにもかかわらず、なぜか特定の部品や製品だけ高かったりするケースはかなり見られる。物流も配送に出たトラックが空で帰ってきていたり、部門によって頼んでいる物流会社が違っていたりする。これらの無駄を見直すのである。
「買わない」とは、買い替えをせず既存のもので代替したり、数量を抑えたりすることである。
以上の4つの手法を効果的に実施するにはコツもいる。それは(1)社員の得になるようにする、(2)ルール化する、(3)強制するの3つをうまく組み合わせることだ。道徳観や倫理観に訴えてもコスト削減はうまくいかない。会社全体の利益を考えているのは結局、社長、役員、部長までだからである。
坂口孝則
1978年、佐賀県生まれ。大阪大学経済学部卒。メーカーを経て、2010年より現職。著書に『思考停止ビジネス』など。