なぜえきねっとは「使いにくい」と言われるのか
えきねっとが誕生したのは2000年、実は四半世紀近い歴史をもつサービスだ。当初は「インターネット電子モール」の扱いで、JR東日本グループ・ホテルの予約や商品の販売を行っていた。乗車券・特急券の取り扱いは2001年に始まったが、バーチャルモールとしてのえきねっとに、JR東日本と日本航空、JTBが共同で旅の総合サイト「えきねっとtravel」を出店する扱いだったのは時代を感じる。
その後、えきねっとはリニューアルを繰り返しながらサービスを拡充していくが、サービス開始から現在に至るまで「使いにくい」「わかりにくい」と言われ続けている。駅員が操作するマルスをベースにしているため、きっぷを発券する側の思考で組み立てられており、乗客側の「知りたい」「買いたい」ニーズと一致していないからだ。
2021年の大規模リニューアルを経た現行えきねっとも根本的なところは変わっていない。試しに6月30日(日曜日)、筆者最寄りの大宮駅から乗車し、母方の郷里である長野県の岡谷駅に12時までに到着するきっぷをえきねっとで検索してみよう。
経由駅を指定しなかった場合、最初に表示されるのは、大宮駅から北陸新幹線「かがやき」で長野駅まで出て、長野から松本まで特急「しなの」、松本から岡谷まで特急「あずさ」を利用するルートだ。到着は11時25分、所要時間は2時間49分で、乗車券・特急券は計1万500円(割引適用なし)だ。
次に表示されるのは、大宮から埼京線で武蔵浦和、武蔵野線で西国分寺に行き、中央線で立川に出て「あずさ」に乗るが、この「あずさ」は岡谷駅には停車しないので上諏訪駅で普通列車に乗り換える。11時41分に到着し、所要時間は3時間18分、乗車券・特急券は5980円(同)だ。
本当に必要なきっぷにたどり着かない
一般的には首都圏から諏訪地方に行く場合、中央線特急「あずさ」を利用する。確かに所要時間で見れば新幹線と特急を乗り継ぐ前者のルートが最速なのかもしれないが、乗車距離が長いため運賃と特急料金がかさむし、2回の乗り換えが必要だ。顧客は12時までに到着するルートを探しているのだから、倍近く高い選択肢を選ぶ人はいないだろう。
しかし、えきねっとが提案する中央線ルートもおかしい。素直に新宿駅から「あずさ9号」に乗ればいいのに、武蔵野線経由で立川からの乗車が示される。運賃、上諏訪までの特急料金とも同額(岡谷まで乗ると立川からの乗車が310円安くなる)なのに、なぜこうなるのかというと、この時間帯は武蔵野線を経由すると所要時間が3分短い(大宮駅を3分遅く出発できる)だけのこと。
しかし埼玉から長野まで200キロ以上も移動する際に、3分のために2回も余計に乗り換えたいと思うだろうか。単なる乗り換え検索であれば「そんなルートは使わない」と無視もできるが、えきねっとは検索結果に表示されたきっぷしか買えないので、経由駅に新宿を指定することに思い至らなければ立ち往生だ。
みどりの窓口に依頼した場合、仮に立川から「あずさ」に乗ったほうが安くなる場合でも、そのようなきっぷを提案することはないだろう。駅員にお願いすれば常に合理的なきっぷが出てくる安心感があるが、えきねっとでは利用者自身が(場合によっては明示されていない)さまざまな条件を考慮しなくてはならない。