家庭崩壊
知多さんが小学校5年生の年の秋頃、男性に親しげに肩を抱かれる母親(41歳)の写真を家の中で発見。まだ男女の恋愛について想像が及ばなかった知多さんは、無邪気にその写真を父親と兄に見せた。
「母がどのタイミングで不倫を始めたのかはわかりません。工場のパートに出始めて交友関係が広がったタイミングか、スナック経営の最中なのか。ただ、不倫が発覚したのは、父が完全に働かなくなった頃でした」
母親の不倫が発覚した後、父親のアルコール依存が加速した。それに伴い、徐々に夫婦関係は悪化し、両親はお互いに避け合うようになった。
父親は夜な夜な誰に向かうともなく「ふざけんじゃないよ〜!」と叫び散らし、明け方まで家の中で暴れていた。そのため知多さんは寝不足が続いた。
ただ、知多さんにとって良いこともあった。父親が働きに行かず、家で飲んだくれているため、兄は知多さんに暴力を振るわなくなったのだ。その代わり、お金を要求されることだけは続いた。
そして知多さんが中学1年生の夏頃、事件が起こった。
いつも家で飲んだくれている父親が帰ってこないため、母親と一緒に近所を探し回っていたところ、父親が浜辺で倒れているとの連絡が入った。
倒れていた父親のそばには焼酎の瓶がいくつも転がり、不法投棄された原付バイクがあった。
父親は大量のアルコールと、原付の中に残っていた廃油を飲んだらしく、救急搬送先で胃洗浄された。
「父は本気で死ぬつもりだったんだと思います。当時の僕は、既に父のことを嫌いになっていましたが、父に愛された頃のことや父を好きだった自分の間で葛藤していた時期でもありました。しかし僕は、このあたりで初めて我が家の家庭崩壊を認識したのでした」
父親は発見が早かったせいか、後遺症もなく、数日の入院で家に帰って来たのだが、知多さんの苦悩は終わることはなかった。(以下、後編に続く)