「もぐら叩き」的な対応では不十分

米国同様、豪州においても、韓国人コミュニティの方が日本人コミュニティよりも人数が多く、かつ、政治力に富んでいる。そして彼らの中に慰安婦像を設置し、この問題に光を当て、日本を貶め、さらには補償金を払わせようとする勢力が存在する限り、この問題はなくならない。彼らはいわば確信犯でゲリラ戦略に従事しているのであり、日本側の隙をついて問題の拡散、浸透を図っていると言えよう。

そうした本質をよく理解さえしていれば、事案が生じるたびに「もぐら叩き」的に対応するのでは不十分であることは火を見るよりも明らかだろう。むしろ、相手方の出方を見据えて、日頃より任国との間で人脈を作り、情報収集、対外発信に努め、この問題での相手方の主張の根拠が如何に不確かなものかを予め自然な形でインプットしておく必要があるのだ。

現代のオフィスで握手を交わす2人のビジネスマン
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相手によるが、人によっては、当時の日本での公娼制や地方での「身売り」の実相、さらには占領期の米軍兵士対象の慰安施設に言及するのが効果的な場合がある。一方、売春そのものに生理的嫌悪感を示す向きに対しては、度重なる謝罪や補償措置を説明した方が有益な場合もある。日韓間の議論を第三国に持ち込んで社会の分断を招くことが得策でないことを納得させるのも有効だろう。

専門家の冷静かつ論理的な研究を活用すべき

要は、「人を見て法を説け」に他ならない。これこそ、優れて外務省、そして職業外交官の出番なのだ。

言うまでもなく慰安婦問題は女性と性に関わる話であり、今のご時世にあっては、問題が大きくなってから平場で議論することが大変難しい性格のものであることは間違いない。であるからこそ、常日頃から人間関係を構築しつつ、任国の要路の人々が相手方のナラティブに一方的に染められるようなことがないようにしておくことが鍵になる。

幸い、慰安婦問題については、内外の少なくない専門家が冷静かつ論理的な研究、考察を行ってきている。歴史上の各国の慣行を掘り下げるなどして問題を相対化した前述の秦郁彦氏の『慰安婦と戦場の性』、帝国軍人と慰安婦との同志的関係にも光を当てた朴裕河氏による『帝国の慰安婦』(朝日新聞出版)、年季奉公契約を精緻に説明し「性奴隷説」を否定したハーバード大学ロースクールのラムザイヤー教授の論文など、援用できる学術書や研究成果も次々に出てきている。こうした材料をきちんと勉強、咀嚼した上でうまく活用するべきなのだが、日本の外交官はこのあたりの対応がまるでできていないのだ。