パナソニックは「テスラからの期待」に応えられなかった

テスラなどは、自社で部材をつくっている企業ではないので、標準的な部材を仕入れて組み立てたほうが安価なのです。そこが垂直統合型企業のBYDとテスラとの違いです。

テスラは、標準的なリチウムイオン電池をとにかく安く大量につくってくれることをパナソニックに期待していたのですが、テスラの中国進出に当たってパナソニックは十分な量のバッテリーを供給できませんでした。

当時パナソニックの社長だった津賀一宏氏も、いたずらに数を追わず品質を追求すると言っていて、その結果、テスラは中国でのバッテリー供給先にCATLを選ぶことになり、CATLはいまや世界トップのリチウムイオンバッテリーメーカーになっています。

シリコンバレーのパナソニック本社
写真=iStock.com/Sundry Photography
※写真はイメージです

ちなみに、BYDのブレード型バッテリーのリチウムイオン電池技術には、古くからある技術であるリン酸鉄リチウムイオン(LFP)系の電池が使われています(※1)

(※1)https://president.jp/articles/-/65354?page=4

日本の技術を他国が標準化して、大規模ビジネスに発展

LFPは、蓄電容量は小さいのですが、安価で安全性が高いという特徴を持っています。BYDだけでなく、中国の多くの低価格EVにはLFP系の電池が採用されています。そして、廉価で標準的な技術を採用したBYDのEVが電気自動車市場でテスラを抜いて世界シェア1位に躍り出たことを考えると(※2)、「技術さえよければ、お客様は買ってくれる」ということが神話にすぎないことがおわかりいただけるでしょう。

(※2)https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240103-OYT1T50149/

国際的に分業が進みオープンな環境でイノベーションが行われる今日では、特定の企業が少量供給できるユニークな技術よりも、国際的に広く外販でき、標準部品として使うことのできる技術のほうが、使い勝手が良く、コストパフォーマンスも良いので顧客企業や消費者に受け入れてもらいやすいということなのです。

このように日本は、技術的な優良さだけを求め続けた結果、多くの場合であえなく数の力に負けてしまっているのです。特に21世紀になってから、この傾向が顕著に出ています。

21世紀はオープン化と標準化の時代になりました。先にも述べたように、大量に安く供給することで1位を取った者が総取りできるゲームになってしまったのです。例えばシャープが大型化に成功した液晶パネルも、大規模なパネル工場に投資をしたパナソニックのプラズマパネルも、どちらも世界のビジネスでは成功を収められませんでした。

これらに共通しているのは、日本が最初につくった技術を他国が標準化して大規模ビジネスに発展させ、その結果、日本が市場から撤退していくという構図です。太陽光パネルも同様で、リチウム電池もそうなりつつあります。半導体もこれとまったく同じ構図で負けていますが、このように、半導体だけが特殊な例ではないという話です。