ビジネスとして、同一スペックのものが長期に必要

例えば液晶テレビが壊れたとします。テレビについては、経済産業省による性能部品の保有期限は8年と定められているので、8年間は修理する義務があるのですが、メーカーも在庫として8年前のパネルなど持ってはいません。そこでどうするかと言うと、異機種変更と言って異なる機種に変更するという対応になるのです。

テレビであれば修理代金の代わりに一定の額を払ってもらって、新しいテレビに置き換えます。スマートフォンも壊れたら交換してくれるサービスがありますが、壊れたモデルはもう在庫がないので新しいものと交換させてください、という異機種変更対応になります。3年から5年のスパンでなくなってしまうことが当然視されているのが、エレクトロニクスの製品なのです。

しかし、それと同じことが自動車では許されません。5年経って部品がないので新車と交換しますなどということになったら、自動車メーカーは商売にならないのです。エレクトロニクス製品以上に耐久消費財なので、10年以上の使用に備えなければなりません。したがって、自動車に使うIC部品は最先端高スペックのものより、一定スペックのものを長期にわたってつくり続けなければならないのです。

さらに言えば、新興国での自動車や家電製品の需要も爆発的に伸びたことで、10年前の予想をはるかに上回る量の半導体が必要となってもいるのです。しかし、いまある工場の生産能力だけでは増産も限界が出ているのです。こうした半導体の事情と、エレクトロニクス製品を技術論ではなくビジネスとしてしっかり捉えていないと、今回熊本に22/28ナノ工場をつくる意味はなかなか理解できません。

「日本発の優れた技術」は中国に取られてしまった

リチウムイオン電池は、旭化成の吉野彰氏がその基本構成を完成させたことでノーベル化学賞を受賞した、日本発の非常に優れたテクノロジーです。この技術をパッケージングして製品化したのが、ソニーや三洋電機、東芝といった日本メーカーでした。その後、リチウムイオン電池事業で大きく業績を伸ばしたのが三洋電機です。

ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏
ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏(写真=大臣官房人事課/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

さらにそれを大きな規模で成長させる目論見で三洋を買収したのがパナソニックでしたが、目論見どおりには大きなシェアを取ることができず、中国資本のバッテリーメーカーCATLにそのシェアを奪われてしまったという過去があります。

従来の自動車メーカーは、EVに搭載するバッテリーを専用のものと考えていたのに対して、テスラは標準的な部品を使って安くEVをつくってしまいました。ちなみに中国のBYDは、ブレード型と言われるバッテリーを使用しています。BYDは自動車メーカーであるとともにバッテリーメーカーでもあるので、自社向けに都合のよいものをつくるという、これはまた別の戦略です。