褒めるときと叱るときの方向づけをきちんとする

もう1つだけ心理学理論をいいますと、心理学の行動療法には、オペラント条件づけという考え方があります。

これは、好ましい行動、望ましい行動をしたら褒める、悪い行動、望ましくない行動をしたら罰することで、賞と罰の体系をはっきりとさせて、人間の行動を望ましい方向に向けていこうというものです。

たとえば、テストでよい点を取ってきたら褒める、運動会で走るのが速かったら褒める。けれども、友だちを殴るとか、ウソをつくなどという行為をしたときには、叱るということです。

ただ、これを行うときに問題になるのは、ときどき親のほうが賞と罰を間違えて、子どもに混乱をきたすことがあるということです。

たとえば、成績が悪くて落ち込んでいるときに、普段より話をよく聞いてあげるとか、不良的なことをしたときに、親がよけいに心配してすごく子どもに気をつかうなどというケースです。

オペラント条件づけの理論からいいますと、逆なのです。みっちりと叱ってやらなければならないときに、親があわててしまって愛情をかけてしまうと、子どものほうは方向づけが混乱してしまいます。

あるいは、よい点を取って帰ってきたときに、「勉強だけじゃダメよ」と言われてしまえば、それもまた賞と罰の体系を混乱させてしまいます。

現在のアメリカの教育界や精神医学の考え方では、この賞と罰の体系をはっきりとさせた行動療法的なアプローチが非常に盛んになっています。カウンセリング的にあれこれと話を聞いてあげるよりも、賞と罰をはっきりさせたほうが、子どもの成績もよくなるし、患者さんもよくなると考えられているのです。

子供を叱る親
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子どもの反省度合いを見てから叱る

裁判のニュースなどを見ていますと、「本人が十分反省しており、社会的制裁も受けているので、実刑には忍びない」ということで、執行猶予がつくことがあります。

それと同じで、子どもの場合にも社会的制裁というものがあります。塾へ行っている場合などは、成績が悪いとクラスが降格されたりしますから、親がことさらに叱らなくても、子どもはもう十分に社会的制裁を受け、落ち込んでいるわけです。

それに親が追い打ちをかけるように叱るよりも、「嘆いていてもしょうがないから、次はがんばりなさい」とか、「次は見返してやりなさい」という言葉をかけ、ともかくいま勉強しておくことに意味があるのだということを強調するほうがよいと思います。落ち込みから、動機づけの方向へ変えてあげるということです。

テストで0点を取ってきたとしても、反省している様子があれば、テストの点数自体は叱るべきではありません。

しかしながら、0点を取ってきたのに、ヘラヘラしていて、当たり前のようにしてゲームをやっているとか、いつもと同じように友だちと遊びに行くといった場合には、厳しく叱るべきです。

「悪い点を取ったこと自体は、結果なんだから叱らない。でも、悪い点を取ったんだったら、次によい点を取るように努力をするのが当たり前でしょ」という意味で、叱るのです。

つまり、悪い点を取ってきて、しょげてしまって、「今日はテレビも見ないよ」と言っているのであれば、本人が反省しているのですから、叱る必要はないのです。

逆に、悪い点を取ったにもかかわらず、当たり前の顔をして、自分の娯楽を我慢しない、反省していないと見たら叱るべきだと思います。