古畑の原点ともいえるコメディドラマ

この成功の最大の功労者は、いうまでもなく脚本の三谷幸喜である。1961年生まれの三谷幸喜は、学生時代に劇団「東京サンシャインボーイズ」の主宰者、劇作家として頭角を現し、注目された。それと同時に放送作家としてテレビやラジオの番組制作にかかわるようになり、やがてドラマの脚本を手掛けるようになる。

2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本への称賛も相次ぎ、いまや大御所となった三谷が注目を集めるきっかけになったのは、1988年に始まった深夜ドラマ『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系)である。同居する三姉妹の可笑しくも平和な日常を描いたシチュエーションコメディ。

シチュエーションコメディとは、物語の舞台があちこち変わることなく、ある部屋なら部屋のなかだけで物語が進行するようなコメディを指すが、そうした限られた登場人物のあいだのみでの会話劇を得意とするところは、『古畑任三郎』にも生かされている。

1993年には、初の連続ドラマでしかもゴールデンタイム放送の『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)がヒットした。織田裕二が医師役でダークヒーローを演じて話題に。ただ三谷自身はコメディを目指したもののスタッフの意向でシリアスなトーンのものに変えられてしまい、本意ではなかったと回顧する(三谷幸喜『オンリー・ミー』、119頁)。

初めてヒットした「倒叙スタイル」

だがこの実績によって、三谷は自分の好きな題材を好きなように書ける足がかりを得た。その記念すべき第一歩となったのが、この『古畑任三郎』である。

物語の形式という面での最大の特徴は、あの『刑事コロンボ』と同様の倒叙ミステリーという点だ。

シャーロックホームズ探偵帽子、喫煙パイプ、レトロな虫眼鏡
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通常ミステリーにおいては、「犯人探し」が最大の焦点となる。事件現場に残された証拠や捜査の過程で集まった新たな情報・証拠などをもとに真犯人を突き止める。読者や視聴者はそこに至るプロセスを主人公とともに体験することで、ハラハラ感やドキドキ感を得る。

ところが、倒叙スタイルにおいては、犯人は最初から明らかになっている。そのうえで、刑事や探偵が、その犯人のトリックやアリバイをどのように崩していくのかを読者や視聴者は楽しむ。犯人はわかっているので、通常のパターンとは違った感覚で、刑事や探偵とのやり取りがより緊張感をもったスリリングなものになる。

そして完璧と思われた犯人の計画のどこに隙があったのかが暴かれたとき、大きなカタルシスが生まれる。

推理小説においては古くからあった手法のようだが、刑事ドラマにおいてはあまり類例がない。最近では木村拓哉主演の『風間公親‐教場0‐』(フジテレビ系、2023年放送。脚本は『踊る大捜査線』の君塚良一)が倒叙スタイルだったが、少なくとも最初に倒叙スタイルで人気を博した日本の刑事ドラマは、この『古畑任三郎』ということになるはずだ。