だから豪華ゲストが次々登場した

倒叙ミステリーの効用は、通常とは異なる味わいの謎解きだけではない。特にドラマとしてのポイントは、犯人役の比重が高くなることである。

通常の刑事ドラマでは、犯人は刑事の引き立て役になりがちだ。したがって、犯人役に(黒幕などは別として)大物俳優や旬の人気俳優をキャスティングすることは難しい。だが倒叙ミステリーならば、犯人は刑事と丁々発止でやり合う対等なポジションになる。

こうして、倒叙スタイルは、いかにも悪役というような俳優ではなく、主役級の俳優を犯人役として起用することを容易にした。実際、『古畑任三郎』シリーズの人気を支えた大きな要因のひとつは、毎回登場する犯人役の従来にないような豪華さだった。

第1シーズン第1話「死者からの伝言」、つまり記念すべき初回エピソードの犯人役となったのは中森明菜。人気漫画家で、自分を弄んだ編集者を殺すという役柄だった。いうまでもなく中森は一世を風靡したアイドル歌手。普通なら、1話のみの犯人役で出演することはまずない。

その後も意外かつ豪華な犯人役は続いた。第2シーズン第1話「しゃべりすぎた男」で弁舌鋭い弁護士を演じた明石家さんま。同第4話「赤か、青か」で爆弾を仕掛ける大学助手を演じた木村拓哉。このときは最後、田村正和が木村にビンタをする場面があり、いまでもなにかと話題に上る。この頃は「キムタクブーム」の最中であった。また第3シーズン第8話「完全すぎた殺人」では、車椅子の化学者役で福山雅治も登場している。

「古畑任三郎VSSMAP」という神回

そのなかでも話題を呼んだという点では、やはりSMAPのグループでの出演が思い出される。第26回、その名も「古畑任三郎VS SMAP」。

太田省一『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)
太田省一『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)

ここでのSMAPは本人役での出演だった。草彅剛を恐喝してくる男への怒りを抱いた他のメンバーは、グループ5人全員で計画を練り協力してその男を殺す。そしてコンサートの開演を目前に、古畑とSMAPの息詰まる駆け引き、攻防が続く……。ラストでコンサートの幕が上がるシーンまで、目が離せない回である。

本人役というのがひとつミソである。当時国民的アイドルの名をほしいままにしていたSMAPだが、彼らが本人名義で殺人犯役として出演するなど、犯人役にスポットが当たる『古畑任三郎』以外ではあり得なかっただろう。

そして彼らを単純な悪者にしないよう工夫が凝らされた三谷幸喜の脚本も冴えていて、最後は一種不思議な感動をもたらす回にもなっている。視聴率も32.3%ときわめて高いものだった。

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