悪玉コレステロールは心臓医にとっての「悪玉」

なお、血中コレステロール値が240ミリグラムから269ミリグラムまでは、高いほど脳卒中の発症率が下がるというデータもあります。これはハワイの日系人を対象に行ったものなので、日本人にも当てはまるとみていいでしょう。総コレステロール値がたとえ健康診断の基準値の上限220ミリグラムを超えていたとしても、269ミリグラム以下なら心配する必要はないのです。

【図表】ハワイの日系人血清コレステロール値と死亡率

いずれにせよ、ある臓器に悪いものが体全体に悪いなどということはありません。日本ではいまだに、コレステロールは心臓の血管を詰まらせるの一点張りで悪役にされてしまっていますが、功罪の功の部分をもっと積極的に評価すべきです。特に中年以降はメリットのほうが大きいといっていいでしょう。

まず、コレステロールは男性ホルモンや女性ホルモンの材料にもなりますから、その値が高い人ほど老化が遅く、若々しくいられます。特にその影響が強く出るのは男性のほうで、コレステロール値が減少すると途端に性欲が衰え、EDになりやすくなります。よくコレステロールは善玉、悪玉という言い方をしますが、それは動脈硬化にしか関心のない心臓の医者から見て善玉か悪玉かというだけの話。男性ホルモンの材料となるのは悪玉コレステロールなのです。その悪玉コレステロールは、セロトニンという神経伝達物質を脳に運ぶ役目も担っています。セロトニンは不足すると脳の機能が衰えてうつ病にかかりやすくなるのです。悪玉という言葉にだまされて、ちょっと多いくらいですぐに薬で減らそうとしないほうがいいと忠告しておきます。

では、寿命はどうでしょう。コレステロールが高い人と低い人とではどちらが長生きだと思いますか。これに関しては、東京都小金井市の70歳住民の10年間の追跡調査の結果を見れば一目瞭然です。いちばん長生きはコレステロール値が中から高めの群(男190~219ミリグラム、女220~249ミリグラム)。反対に短命はもっともコレステロール値が低かった群(男~169ミリグラム、女~194ミリグラム)となっています。

【図表】コレステロールが中より高めでもっと長生き

動脈硬化で心筋梗塞になりたくないからとコレステロールが含まれる食品を敬遠したり、薬でコレステロール値を下げたりして、それで心臓は大丈夫だったとしても、ほかの病気で死んでしまったら元も子もありません。それに、心臓は心臓ドックを受けて、もし狭窄が見つかったらステントやカテーテルを入れればなんとかなります。日本の心臓外科手術はお世辞にも上手いとはいえませんが、ステントやカテーテルの技術に限っては世界一。なにしろ台湾の李登輝元総統がそのためにわざわざ日本に来たくらいです。ところが、がんはそうはいきません。だったら心筋梗塞よりもがんにならないほうを選択するほうが賢明ではないですか。

健康のために体重を気にして食事制限をしている人も少なくないと思いますが、日本人の大半はその必要はありません。特に中高年は肉類をガンガン食べたほうがいい。そのほうが節制するよりもよっぽど健康になれます。

年をとったら脂っこいものは控えたほうがいいとか、長生きしたければ粗食を旨とすべしとかいう説は、少なくとも日本人にはあてはまりません。肉食が体によくないというのは、アメリカの医学界が言い出したことを、日本の医者がそのままわが国に持ち込んだだけのこと。アメリカでは国民の肥満が社会問題となっていて、心筋梗塞が国民病となっていましたから、国民に過剰摂取している肉を減らせと呼びかけることに妥当性はたしかにありました。でも、日本人はもともとそんなに肉を食べていません。1980年代にアメリカで肉を減らせという声が高まったときの肉の摂取量を比べると、アメリカ人が1日平均約300グラムだったのに対し、日本人はその4分の1以下の約68グラムだったのです。

だから、日本では肉を減らす必要なんてそもそもなかった。それなのにアメリカが200グラムを目標値としたものだから、じゃあわが国も同様に減らそうと日本のバカな医者が決めたのです。もっとも国民はそこまで深刻にこの警告を受け止めなかったため、現在は日本人の肉の摂取量も100グラムぐらいにまで増えています。もし素直に従っていたら、いまごろ日本はかなりの短命国になっていたに違いありません。というのも、日ごろから肉を食べている人ほど血中アルブミン値が高く、元気で長生きだからです。

【図表】世界の年間一人あたり食肉消費量
【図表】広島の日本人とハワイ日系人の栄養比較