川勝知事がJR東海から本気で引き出したかったもの

川勝知事は2010年7月2日のリニア小委員会に、リニア沿線都府県知事の一人として出席した。

そこで、東海道新幹線の静岡―掛川駅間に、2009年に開港したばかりの静岡空港に隣接する新駅の設置の有望性をとうとうと説明した。

「中央新幹線の整備計画とともに東海道新幹線の新駅設置を明確化していただきたい」などと強く迫った。

最後に、「東海道新幹線の新しい運用形態を生かした陸・海・空の結節によるモデルとなる。静岡空港の新駅が設置されることが、その重要な突破口になるだろう」と静岡空港新駅の必要性を訴えた。

静岡空港ターミナルの地下を東海道新幹線が通る
写真提供=静岡県
静岡空港ターミナルの地下を東海道新幹線が通る

その後、委員から静岡空港新駅の費用負担を問われて、川勝知事は「(のぞみ等の通過のための)待避線を前提にした場合、450億円ぐらい、待避線のない形でほぼ250億円と試算している」と具体的な金額を挙げた上で、「JR東海と相談ということになるが、受益者負担であることを考慮に入れて、新駅の必要性を訴えている」などと静岡県が設置費用を負担する請願駅であることも明らかにした。

小委員会の最終答申には、リニアが「新駅の設置などの可能性を含む、東海道新幹線利用者の利便性向上及び東海道新幹線沿線各駅の活性化に寄与する」と盛り込まれた。こうして、「静岡空港新駅」が小委員会で大方の賛同を得たと川勝知事は思い込んだのである。

県内市町も味方につけようとしたが…

JR東海との水資源保全の議論が始まる前の2018年夏、川勝知事は大井川利水関係協議会に11の流域利水者だけでなく、静岡空港近くの大井川流域10市町長を加えた。

というのも、静岡県が設置した「東海道新幹線静岡空港新駅設置期成同盟会」(会長・知事)では、副会長に島田、牧之原、吉田の3市の首長、焼津、藤枝、御前崎、菊川、川根本の5市町の首長も参加しているからだ。当時、大井川流域の首長らが結束して、静岡空港新駅設置を待望していた。

しかし、JR東海は川勝知事の求めに応じることはなかった。

「リニア騒動」から5年もたち、川勝知事のリニア妨害がますます悪質となっていく。またリニア問題があまりにも複雑怪奇となったため、静岡県に対する周囲の風当たりが強くなった。このまま川勝知事に任せておくことに、流域市町長は強い疑問と不信感を抱いたのだろう。

2022年4月、JR東海が、川勝知事の求めた全量戻しの解決策「田代ダム案」を提案すると、流域市町は同案を全面的に支持するなどして、「リニア騒動」の早期の幕引きに転じた。

その結果、静岡空港新駅の設置は夢と消えた。