「警察も反省している、同じことは起きない」と答弁した総理大臣

その理由について、他の政党の国会議員が衆議院に提出した質問主意書に対する回答書――回答者名は当時の総理大臣となる――において、以下のように説明している。

これらのうち、電気通信事業法違反については、同検察庁検察官は、被疑者両名による通信の秘密侵害の未遂の事実を認めたが、被疑者両名は個人的利欲に基づいて本件を犯したものではないこと、被疑者両名が本件の首謀者ないし責任者的立場にあるとは認め難いこと、警察において、本件につき深く遺憾の意を表するとともに、かかる事態の再発防止に努めることを誓約するなどしており、今後本件のような事犯が発生しないことを期待し得ること等の諸事情を総合勘案して、起訴を猶予するのが相当と判断したものである。

また、有線電気通信法違反については、被疑者両名が電話線を切断するなどして通信を妨害したと認めるには至らなかったことから、犯罪の嫌疑が不十分であり、偽計業務妨害罪については、被疑者両名の行為がO氏による電話の通話及びこれを利用してなされる業務を妨害するようなものであったとは認められないことから、犯罪の嫌疑がなく、公務員職権濫用罪については、被疑者両名の盗聴行為は、警察官によるものであることを他人に察知されないようになされたものであって、公務員の職権行使の外観を装って行われたものではない上、通信を妨害しようとしてなされたものでもないので、犯罪の嫌疑がないと判断し、それぞれ嫌疑不十分又は嫌疑なしを理由とする不起訴処分をしている。(平成十年三月二十七日受領、答弁第一七号 内閣衆質一四二第一七号 平成十年三月二十七日内閣総理大臣 衆議院議長殿 「衆議院議員H君提出N党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する質問に対する答弁書」)*なお、引用にあたって固有名詞はイニシャルとした。

さまざまな理由をつけて起訴猶予に

この論理でいけば、電気通信事業法違反に関して、公務員によって通信の秘密侵害の未遂があったことは認める。しかし、盗聴は、ある行政機関が組織決定の下に行ったものであり、組織的ゆえに、自己の私欲のためにしたわけでもないので、電気通信事業法違反によって処罰するのはふさわしくない。当該機関が「深く遺憾の意を表」し、「再発防止に努めることを誓約するなどして」いるので、起訴猶予とすることになる。

有線電気通信法違反については、同検察庁検察官は、盗聴行為をしても、電話を聞き取りにくくするなど通話を妨害していないので有線電気通信法に違反しない。警察官の警察官の制服など公務員として分かる外見で、この盗聴行為を行ったわけではないので、偽計業務妨害や公務員職権濫用にはならない、ということになる。

木製のテーブル上の天秤
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