検察官は「バランスの取れた判決」を望んでいる

最近では、「求刑」を「意見」と呼び替えているが、呼び名を変えてもこのことは変わらない。過去の求刑のデータの蓄積に基づいて作成された基準で求刑を行うのである。

検察官は単に重罰を求めているわけではない。求刑を超えた刑罰を科されることは好まない。じつは、裁判官や裁判員に勝手に刑期を加重されるのは迷惑と考えている。量刑の基準から逸脱することになるからだ。また、公判担当の検察官にとって、求刑が妥当であったかという責任問題を発生させることにもなるからだ。

裁判所の看板
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裁判官は求刑の8割程度の刑期を言い渡すことが相場となっており、こうした点からも刑事裁判を実質的に掌握しているのは検察官だと言ってもいいだろう。検察官は法廷で被告人の責任を厳しく問う役割を果たしているが、検察官が罪を犯さないわけではない。殺人や強盗を除いて、非常に多様な種類の「犯罪」を行っているのだ。

酔っぱらって住居に侵入した新米検事

以下の引用文に示されているような犯罪を二度まで行った検察官は、その後どうなったのだろうか。引用文の次に示す八つの選択肢から選んでみよう。

60年の晩秋、大阪・北浜の弁護士事務所で、厳格だが面倒見がよいとされるB弁護士がこう言った。

「I君には駆け出しのころの思い出がある。東京地検の宿直室に泊まっていると、夜遅く警察電話が鳴った。若い事務官の応対を聞いていると“I? そんな検事はいませんよ”と言う。“ちょっと待て”と制して名簿を繰ると、末席にいるんだな。あわてて用件を聞き直すと、相手は“住民から、生け垣をかきわけて庭へ侵入した者がいる、と急報があった。

酔漢を保護し本署へ同行したら、検事だと言うので照会に及んだ”と答える。みなまで言わせず、私は“わかった。すぐ伺う”と、車で渋谷署へ急行、その場をおさめ、彼と一緒に地検へ引き揚げた。何か勘違いがあり、記憶もハッキリしないようだった。

その晩は宿直室に泊めたが、馬場義続次席検事は規律に厳格で、I君は新人だ。成り行きでは、気の毒なことになりかねない。そこで『あすは朝早く出て、馬場さんの出勤を事務局で待ち受け、今夜の事実を報告して素直に詫びるのだ。間違っても、言い訳をするな』と“作戦”を授けた。

翌朝は早く起こして朝食をとらせ、激励して送り出した。彼は上手に謝ったのだろう。いらい、馬場さんのお気に入りになった。だが、彼はそれで懲りず、そのあとで、もう一度Sさん(後に検事長)のご厄介になったそうだ。(後略)」(澤田東洋男『検察を斬る』図書出版社、1988年、218~219頁)*なお、当事者の固有名詞をイニシャルへ変更した。