犯罪を取り締まる検察官や警察官は、どんな人物なのか。関西学院大学名誉教授の鮎川潤さんは「ロッキード事件で田中角栄元首相を有罪へと導き、のちに検事総長となった伊藤栄樹氏は、泥酔して他人の庭に侵入する不祥事を二度も起こしている。検察が身内に甘さを見せるべきではない」という――。

※本稿は、鮎川潤『腐敗する「法の番人」 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

大きな権限を持っている検察官

犯罪者の処罰で、実質的に最も大きな権限を持っているのは、じつは検察官である。検察庁は、複数の地方検察庁に設けられている特別捜査部(特捜部)を除いて、直接捜査には携わらないが、犯罪の被疑者を裁判所に起訴する権限を持っている。

最高検察庁、東京高等検察庁、東京地方検察庁、東京区検察庁などが入る中央合同庁舎第6号館
写真=時事通信フォト
最高検察庁、東京高等検察庁、東京地方検察庁、東京区検察庁などが入る中央合同庁舎第6号館(=2024年5月5日、東京都千代田区霞が関)

警察から送られてきた事件に関して、被疑者を起訴して処罰するかどうかを決定する。犯罪の嫌疑が十分に証明された証拠がないと考えれば不起訴にするし、処罰するに値しないと考えれば起訴猶予にする。警察の取り調べた内容と証拠を再確認し、起訴に値すると考えられる事件については調書を取り直して、裁判所に起訴する。

日本では警察は起訴する権限を持っていない。起訴する権限を検察庁が独占的に持っていることを「起訴独占主義」と呼ぶ。警察から検察庁へ送致された事件のうち、起訴され通常の裁判が行われるのは約一割にすぎない。起訴には違いないが、事実関係について争いがなく罰金を支払って終了する略式起訴と合わせても、起訴されるのは約三割である。

不起訴と起訴猶予は合わせて6割を超える(2021年)。このように、起訴するかしないかを決定する権限は検察官が持っている。これを「起訴便宜主義」と言う。起訴して裁判になれば、検察は最終段階で求刑を行う。これが判決の量刑のガイドラインとなる。検察官は求刑することによって、実質的に裁判官が下す判決を決めていると言っても過言ではない。