限られたお金で賢く生活費をやりくりする方法は何か。精神科医の保坂隆さんは「少しでも生活費を切り詰めたいという気持ちがあるのなら、今日からすべてのレシートを持ち帰り品目や金額を読み取ってくれる便利な『家計簿アプリ』でそれを撮影し、『必要だったもの』と『ほしかったもの』の2種類に分類するといい。『ほしかったもの』なら半分程度に減らしても、それほど生活の質や満足度は落ち込まない。ただし、極端に減らすと生活に潤いがなくなり暗い気持ちになるから、やりすぎない方がいい」という――。

※本稿は、保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

年金手帳と、財布からお金を出す人の手
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節約とは「低く暮らし、高く思う」こと

「南海泡沫事件」をご存じでしょうか。

1720年、イギリス(グレートブリテン)で、南海会社を舞台に起こった株価の急騰と暴落、そしてそれに続く混乱を指します。この混乱こそがバブル経済の語源となった事件です。

そう、イギリスでもかつてバブル経済は経験済みなのです。

その当時はバブルに浮かれ、派手さを好んで暮らしていたようですが、賢明なイギリス人はバブル崩壊とともにすぐに派手さや豪華さを求める物質本位の暮らしのむなしさを知ったようです。

イギリスの代表的ロマン派詩人、ワーズワースの『ロンドン1802年』という作品のなかに、「Plain living and high thinking(質素な暮らし、高遠なる思索)」という一節があります。

この詩が書かれた19世紀に、イギリスは産業革命をいち早く成し遂げ、工業化による圧倒的な経済力と軍事力を誇り、世界一の繁栄を謳歌していました。

その繁栄は国民にも浸透し、当時はイギリス人も「バブリーな暮らし」に惹かれていた人が少なくなかったのでしょう。

ワーズワースの詩は、それを鋭く批判しています。

「強奪、貪欲、消費……。これぞわれらが偶像。
われらはこれをあがむる。
質素なる暮らし、高遠なる思索はすでになく……」

貪欲な態度や消費に走る暮らしからは、高遠な思いは消えてしまう……。

そう詩に詠むことで、ワーズワースは「低く暮らし、高く思う」という精神性の高さを取り戻そうと訴えかけたかったのでしょう。

「Plain living」は直訳すると、「シンプルな暮らし」となります。余分な飾りや余計なものを省いて無駄がなく、でも必要なものは過不足なくしっかりあるという暮らしです。そうした生活のほうが、「人の思い」は高まっていくのではないでしょうか。

ワーズワースの詩の拡大解釈になりますが、バブル経済を経て、過剰なくらい贅沢な消費文化にどっぷりと浸かってきた現在の日本の高齢者は、本格的な老後のただ中にいる今こそ、「Plain living and high thinking」という精神を心に刻み込む必要があるのではないでしょうか。