「費用」と見るか「価値」と見るか

農水産省の計算にしたがえば、流通部門の帰属額および帰属割合は、農水産物原材料部門を大きく上回る。そして、その差はここ25年間、着実に拡大する。モノづくり志向の人には、この数字は不本意な数字に見えるかもしれない。そもそも食品の価値をつくるうえで一番大事な農水産物一次産業の取り分が少ないうえに、その比重も減っているからだ。加えて、製造・二次産業部門の割合も伸びていない。原材料生産も加工品製造もせず、商品を流通させるだけ(と思われている)流通業に大きい取り分がまわっている。強力な小売り業者が出てきて取り分を増やしているとか、流通が複雑になって介在する業者が少なくないとか、何か合理的でないやり方で取り分を増やしているという解釈もありうる。取り分を「費用」と見ると、そう見えるかもしれない。

だが、物流を含めた流通業において、価値は拡大していると見ることもできる。生産・採取された原材料・産品を余すところなく消費として価値実現する流通業、その努力の表れと見ることもできる。実際、そうしたサービスが、小売業においても生まれている。たとえば……。

大根1本、サンマ1匹をそのまま店頭に並べて終わりという小売り店は少ない。店舗内バックヤードあるいは加工センターで、小家族用に細かく小分けしパック化する。生鮮品を刺し身や切り身に加工する。1匹のサンマから30種類のメニューを提案販売する小売り業がある。大根も、さまざまに味付けされて各種惣菜になる。寿司やサンドイッチなど、すぐに食べることができる食品づくりも盛んだ。しかも、店頭で売れた分だけバックヤードで加工する、いわば在庫レスの体制も広がっている。お客さんに、作り立ての食品を持って帰ってもらおうというわけだ。店頭陳列物の機動的な出し入れに加え、朝昼夕夜と4回、店に商品を配送する体制を整えた小売り店もある。いずれも、私たちの、1日十数時間の生活時間の中で異なる食事に対する要望に応えるものだ。

こうした流通小売り業の努力は、目に見えない。だが、それらサービス面でのイノベーションは、生活者の期待に応えるものであると同時に、食品消費の効率性も高めている。いわば、無駄なく、余すところなく、原材料・産品を生活者の食卓に届ける工夫でもある。流通業は、その取り分に見合った付加価値を供給している。これは、費用とは別の視点だ。

各部門の取り分を費用と見るか価値と見るかで、現実への処方箋はまったく違ったものとなる。それだけに、無理に割り切って理解を急ぐことはない。慎重な検討が必要だ。

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