アジア大洋州の貿易自由化が新たな段階を迎えている。政府は昨年11月に「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定。“平成の開国”と呼ぶTPP(環太平洋経済連携協定)関係の9カ国との協議を進めるという。菅直人首相は「参加の最終判断は6月を目途」とし、日本経済の起爆剤にしていきたい考えだ。
日本がTPPに参加した場合のマクロ経済効果を、内閣府で試算した野村証券金融経済研究所の川崎研一主任研究員は「貿易自由化による実質GDPの増加は3兆~4兆円程度(0.6~0.8%)」と推定している。押し上げを担う貿易パートナーは主として東アジア諸国だ。すでにASEANとは経済連携協定(EPA)が発効しており、中国や韓国とは研究・交渉中である。
とはいえ、TPP参加の影響は業種によって明暗がはっきりと分かれる。川崎氏は「日本は自動車で勝つものの農業・食品で敗退。特に農産物は輸入が増大し、国内での生産は地域ブランド米などを除いて相当減少する」と分析。協議の焦点ともなる農林水産への影響は、農林水産省の試算では4.1兆円のマイナスとなってしまう。
では、TPP参加実現の可能性はどうなのか……。川崎氏は「49%」という微妙な数字を挙げる。ポジティブ要素としては、現政権が示している前向きな姿勢や特定品目における例外措置、関税撤廃期間の長さの活用があるという。一方、ネガティブ要素では、安全性への国民感情が取り沙汰される。少し前のBSE問題でも再燃するようなことがあれば、一気に厳しくなる。
(ライヴ・アート=図版作成)