成功事例のニュージーランドが「たまたま2%」だった
【門間】なぜ目標が2%なのか? 私自身も本当は疑問なんですよ。数字がどうしても必要ならゼロでいいじゃん、とすら思います。
【後藤】2%にした理由としては、海外で2%に設定する国が多かったからだと思いますが、この数字は、別にアカデミックに計算したわけではないんですね。
【門間】先ほど窪園さんがおっしゃったように、90年代初めのニュージーランドは物価高に苦しんでいて、もともと4~5%だったんですね。さすがに毎年4%も5%も物価が上がるのはよくないよね、もっと下げようという話になったんです。でも、0%まで下げるのは大変だから2%ぐらいでいいかな、という感じで決まったと理解しています。何事も最初に決めた人が結局ルールセッターになりますから、「2%目標」にしても、たまたまニュージーランドが2%と決めたからそうなった、という面があるわけです。
【後藤】無理して3%にするわけでも、1%にするわけでもなく、2%だった……。
【門間】ニュージーランドの政策が大失敗していれば「やっぱり2%はだめだな」という話になったのでしょうが、結構うまくいったんですよ。続くカナダやイギリスもみんな2%にして、2012年にはアメリカの中央銀行(FRB)も正式な目標として2%という数値を出したんですね。「アメリカが2%を正式に出してきちゃったから、日本もせめて1%ぐらいの数値は出さないとだめかな」ということもあって、それから間もなく日銀は追い立てられるように先ほどの「目途1%」を出したんです。
しかし、それで議論は収まらず、「アメリカも2%なんだから日本も2%にしろ」という論調が根強く残り、その1年後に結局日銀も2%に目標を設定することになります。そんな理由で始まっているものなので、なぜ2%なのかを根本から理解しようとしても無理なんですよ。私自身、2%じゃなくてもいいんじゃないかという人には、説明しても理解してもらえたことがありません。
目標数値によって経済に大きな違いが出るわけではない
【後藤】不思議ですよね。でも、数値が2%なのか0%なのかによって、打ち出す政策はガラッと変わってくるんじゃないでしょうか。
【門間】良くも悪くもという話になってしまいますが、日銀が取れる政策の範囲はおのずと限られているので、目標の数値をガラッと変えたからといって、経済に大して違いが出るわけではありません。
黒田総裁も、金利を大きく下げたわけではありません。最初から下げる余地がなかったのですから。実際、黒田さんが就任する前の15年間と、金利の水準はあまり変わってないわけです。先ほどお話ししたように、金利が変わらなければ、金融政策の効果は基本的には変わりません。
黒田総裁のもとで日銀は、国債を大量に買うなど、見かけ上は非常に大きな緩和をやったように見えます。そのこと自体に意味がなかったとは言いませんが、経済に与える影響としてはそれほど大きな差は生み出せないんです。実際、2%物価目標は10年間達成できませんでした。