小倉家のタブー
筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。
さかのぼれば、“デキ婚”をした小倉さんの両親は紛れもなく「短絡的思考」の持ち主だったと言える。母親は父親と離婚後、次々に交際相手をかえた。親しくなった相手を見下すところがあり、結局、心を許せる友人知人がいなかった。母親は社会で「孤立」していた。
筆者はこれまで、毒親に育てられた50人以上の人に取材を行ってきたが、小倉さんのような毒親育ちの人の多くが、身近な人の横暴な振る舞いに対して異常なまでに我慢強い。
その理由は、毒親に対して我慢を強いられてきたことと、間違った家族像を正す機会がなかったことが大きいだろう。小倉さんは、家庭を顧みず不倫する父親と、娘たちをコントロールし、マウントを取りたがる母親に育てられた。「家族とはこういうもの」という間違った“型”を覚えてしまっていたがゆえに、母親同様、身勝手に振る舞う夫を許し続け、助長させてしまった。
毒親の傾向のひとつは子どもを自分の“所有物扱い”することだ。所有物扱いされて育った子どもは、自分よりも毒親を優先するため、成長しても自分を優先することができない。適切に“自分を優先することができない人”は、“自分ばかり優先する人”に狙われやすい。
義両親に甘やかされて育った小倉さんの夫は、高額浪費、借金三昧、職場不倫、臨月夜逃げと、まぎれもなく“自分ばかり優先する人”だった。
幼い長男と臨月の妻を置き去りにし、夜逃げした夫の言動からは、大人になりきれていない身勝手さが溢れ出ている。両親から甘やかされて育ち、毒母育ちの小倉さんが夫のワガママを受け入れ続けてしまったために、夫は40歳手前まで自分の幼さに気付かずに来てしまったのだろう。
怒涛の出産と調停
その後、無事次男を出産した小倉さんは現在、4歳の長男と3人、マイホームで暮らしている。
1回目の離婚調停では、夫は婚姻費用と養育費を基準額より10万円も低い金額で提示してきた。さらに不貞行為に関して「一回限りだった」と嘘をついた。
「相手女性が一定期間の不倫を認めた合意書がありますし、そもそも回数の問題ではありません。しかしその後、次の調停を前に一部生活費が振り込まれたところを見ると、夫は『不貞行為』を働いた有責配偶者であることに、生活費を払わないという『悪意の遺棄』が積み重なると、さらに裁判で不利になるということは分かっているみたいです」
まだ離婚が確定していない現在、夫が小倉さん妻子に払うべきお金は、
・離婚しない→妻と子の生活保障(婚姻費用)
・離婚する→子の生活保障(養育費)のみ
となり、小倉さんの場合、この2つで10万円ほど差が出るという。
「離婚原因を作った有責配偶者からは、原則として離婚請求できません。夫が離婚したければ『相手に有利な条件を出して、離婚を認めてもらえるよう交渉する』しかないでしょう。だから弁護士さんから『離婚は急がなくていい』と言われました」
小倉さんは離婚不受理届も出しているため、夫が勝手に離婚届を提出することもできない。
ただ、10年以上別居すれば有責配偶者から離婚請求できる場合もあるが、原則『小さい子どもがいない場合』だ。小倉さんの次男はまだ生まれたばかり。10年経ってもまだ10歳では、夫から離婚請求されても認められない可能性がある。
「なので夫は、私たち妻子の生活費+家のローン+夫自身の生活費の三重苦が確定しています。私が離婚を突っぱねる限り、最低でも10年は極貧生活が続くわけです」