隠し口座
一方、夫はこの頃、突然「バイクがほしい」と言い始めた。車のローンすら払い終わっていないため小倉さんが反対すると、夫は渋々ながら引き下がったように見えた。
1年後、夫が単身赴任から帰ってきた。そのとき、単身赴任手当が月50万円ほど出ていたことが発覚。夫は隠し口座を作り、そこに手当だけ入金してもらっていたのだ。
夫は月50万円×1年(12カ月)=600万円を丸ごと自分のものにし、すでに大型バイク免許を取得していた。夫の幼稚さに、小倉さんは情けなくて泣いた。すると、「子どもの口座にお金あるじゃん! それでバイクも買えるはず!」と開き直る夫。
「それは長男の将来のための貯金でしょう!」
何度も説明するが、聞く耳を持たない。600万円を返すように言っても、「大型バイク免許取得と飲み代に消えた」と平然と言いのけられた。
不妊治療とマイホーム
コロナ禍に突入すると、夫の飲み会通いは収まったかのように見えた。
夫の給料が上がり始め、収入も安定。2歳になった長男と遊んでくれるようになった夫に対して不満に思うことも少なくなり、「そろそろマイホームや2人目を考えるか?」という話も出ていた。
しかし、1人目の妊娠で悪阻や産後うつなど大変な思いをした小倉さんは、2人目を簡単には考えられなかった。それでも夫は「どうしても2人目がほしい」と必死に説得してくる。やがて小倉さんは覚悟を決め、不妊治療に挑むことにした。
体への負担を考え、小倉さんはパート(看護師)へ転職。そのとき夫は、「専業主婦になればいいじゃん」と言っていたが、夫のこれまでの言動を思い返し、念のために仕事は続けることに。
ところが夫は、「俺は問題ないはず!」と言って自分は治療に来ない。タイミング法や排卵誘発剤で妊娠に至らず、卵管鏡下卵管形成術に挑戦した小倉さんは一人、泣きながら吐くほどの痛みに耐えた。
一方、「長男が小学校に上がるまでに見つかればいいな」と思いながら土地探しを始めたところ、条件に合う土地が見つかり、トントン拍子にマイホームの話が決まる。
家の打ち合わせでは毎回、「高級感がほしい」と夫は騒ぐだけ騒ぎ、夫の希望と予算との折り合いをつけるのは、もっぱら小倉さん。家のローンを組むため、残っていた車のローンを早く終わらせようとやりくりするのも、小倉さんの務めだった。
この頃の小倉家の大きな出費は以下になる。
・高級車のローン
・長男の保育料
・不妊治療費
・マイホームの頭金
頻度が減ったとはいえ飲み会好きな夫は、どんなに家計簿の収支と口座に残る額を見せても、「俺はもっと稼いでる」と譲らない。
この頃の小倉さんは、3歳からの幼保無償化や不妊治療の終了により、出費が減るめどをある程度つけていた。そのうえで、「もうすぐ給料が上がる」と言い張る夫を信じ、「家さえ建てば、家賃が要らなくなる」と思うことで自分を支えていた。