理系大学院が魅力的なキャリアパスの入り口に

多くの人材が理系大学院で博士号を取りたいと思うようになるためには、博士課程が魅力的なキャリアを築ける場にする必要があります。すでにアメリカでは研究開発型スタートアップが基礎研究の一部を担うようになっており、資本市場との連結が可能とする莫大な研究開発資金の獲得のために、スタートアップの役割は日々拡大しています。

そうしたテクノロジー主導型の会社、ディープテック研究開発型企業の創業者、経営陣、投資家には専門的なバックグラウンドが特に求められており、アメリカではPh.D.が専門的な資質の証明となっています。大学院進学により、自ら会社を興したり、スタートアップへ就職したりといったキャリアの選択肢の幅が広がることが、大学院の魅力の一つになっています。

このように、アメリカの理系大学院は、多くの人が目指す魅力あるキャリアパスへの入り口となっていますが、残念ながら日本ではそうではありません。

アメリカの大学院の授業料は非常に高いのですが、ほとんどの院生は給付型の奨学金を受けるか授業料を免除されており、かつ給料をもらって生活しています。給料といっても日本企業の新卒の初任給と同程度で、額は少ないのですが、少なくとも親に依存しないで自立することが可能です。奨学金も授業料免除も、成績が悪いと即停止されるため、極めてシビアな実力主義の競争社会ですが、「経済的に自立できる」ことは大きな魅力です。

日本は優秀な学生が博士課程に進まない

日本の国立大学は授業料が格段に安いのですが、給料がないため自立することができません。

生活のためには親から借金をするしかない場合が多いのが現状です。

経済的な自立の問題に加えて、大学で研究を続けることがキャリアの選択肢の拡大につながる、という考えがないため、優秀な学生が博士課程を志望しない傾向にあります。

たとえば情報系であれば、博士課程に行かずにグーグルに就職したほうが好きな仕事ができ、経済的に自立できる上に、ダイバーシティのある国際的でエキサイティングな環境に身を置くことができる、となります。

「大学院で研究を続けることがキャリアの選択肢の拡大につながる」という認識が一般化されることが大事であり、それを可能にするのがスタートアップです。アメリカの大学院はシビアな競争社会ですが、関連するスタートアップ企業が数多くあるため、安全弁として機能しています。つまり、いざというときには研究室のメンバーが参加するスタートアップや、教授がアドバイザーを務める外部のスタートアップに就職する、などの選択肢があることが重要です。