「手術が失敗して失明」は迷信
ただ、眼の手術となると、「失敗して失明したら……」と不安になる人は、世代に関係なく多いのではないか。実際にリスクはあるのか、北澤医師に確認した。
「たとえばICLは世界で20年以上行われている治療法で、症例は積算200万症例以上。そのなかで、失明したという報告は国内外で1例もありません。白内障の治療はICLより少し前、50~60年前から行われていて、手術の手技は確立されています。治療対象となる世代にとってはすでに身近な治療法になっているので、手術の前に失明の心配や不安を語る方はほとんどいませんね」(北澤医師)
また、眼内に入れたレンズはいつまでもつのか、交換は必要なのかも気になるところ。手術後、ICLは20~30年は問題なく使えることがわかっている。40~50年の長期安定性は確立されているが、近視が進んだ場合はレンズの入れ替えが可能だ。白内障手術で使う眼内レンズは、半永久的に挿入したままでいいのだという。
老眼や白内障の度合いは運転免許の更新にも関わるし、受診が遅すぎると眼圧が上がって、白内障から(視野の欠損が現れる)緑内障に進行する人もいるというから、見えにくさを感じた時点で眼科医に相談するのが良いだろう。僕が北澤医師に尋ねたように、何年後の手術が最適か、新しい治療法も聞けてプランが立てられる。
認知機能を保つには「視覚」が大事
僕が思うに、老化とは、いろいろな認知機能が低下してくること。耳が遠くなるとか眼が見えにくくなるとか、さまざまな知覚の機能が低下することで脳に対する情報のインプットの解像度が落ち、刺激が減少して脳が老化していく。だから老化防止のためには、視覚で膨大な情報を得ている眼はすごく大事。それなのに高齢者の方のなかには「見える」と言い張る人とか、すりガラス越しにものを見ているような状態になるまで白内障が進んでいるのに手術をしない人も多いように感じる。これはもう、我々の世代だけではなくて、親の世代の問題でもある。
北澤医師も「視覚から得られる刺激や情報は認知症と大きな関係がある」と言う。
「80~90代の認知症で白内障だった方が、杖をついてやっと歩いている状態だったのに、白内障の手術をしたらよく見えるようになって、急に杖なしで歩き始めたという話もあります」(北澤医師)
老眼や白内障は誰にでも起こる老化現象だけれど、「すっきり見える」まで治療することができる時代になった。保険適用にもなるし、さらなる快適さを目指して自費の治療を選択するのもいいだろう。眼科医への相談や受診を先延ばしにせず、裸眼で視野を維持するための方法があることを、ぜひ知ってもらいたい。