たしかに疾病のある人は「対象外」だったが…

こうした情報は、小林製薬もつかんでいたはずです。なのに、消費者任せの製品を出していたのか……という憤りが、医薬関係者の間では強いのです。

今回の問題について、病気の人が摂取していたからだ、と小林製薬を被害者のように語る主張がSNSで出てきています。日本腎臓学会の発表によれば、死亡者5人のうち3人にがん、高脂血症などの既往歴がありました。

機能性表示食品は、パッケージに「疾病のある方、未成年者、妊産婦(妊娠を計画している方を含む)、授乳中の方を対象に開発された食品ではありません。」と記載するルールとなっています。

しかし、諸外国ではサプリメントとしての形状、販売方法が消費者の誤認を生むのは必然、という前提で、先ほど紹介したように、政府機関が販売を禁止したり消費者に注意喚起したりしていました。国の姿勢が根本的に異なるのです。今回の問題で被害者を責めることがあってはならない、と私は考えます。

紅麹サプリは伝統食品ではない

こういうふうに説明すると、いやいや、紅麹は中国や日本で昔から食べられてきた伝統食品だから、安全なのだ……。欧米は、これまで食べてきた食品ではないから過剰反応しているだけだ、という声が聞こえてきます。

しかし、前述の畝山さんは「伝統食品だから安全」という説を明確に否定します。理由は主に、次のとおりです。

① 中国で食品の色付けや、薬膳、治療などに用いられてきたり、沖縄で豆腐ようとして食べられてきたと言われるが、それは普通の食品の一部としてでありサプリではなく、広く食べられてきたという記録もない

② 紅麹といっても菌の種類はいくつもあり、今、用いられている菌が昔から使われてきたかどうか、わからない。小林製薬が用いていた菌が、中国や沖縄で昔から使われてきた紅麹菌と同じであるとする根拠はない

③ 菌はなにを栄養源にしているかで産生物が大きく変わる。昔と今で、同じ物質ができている、という保証はない

④ 伝統的と呼ばれる紅麹の食品原料や着色料としての摂取量は、抽出濃縮し固めたサプリメントを毎日摂る量に比べてかなり少ない

欧米では、新規食品・成分については、少なくとも25年以上、広く一般の人たちに普段の食事の一部として食べられてきたという根拠がない限り「食経験があり安全」とは認められません。食経験が立証できない場合には、動物を用いた毒性試験や遺伝子を傷害するか調べる「遺伝毒性試験」など多数行なって安全性を確認することが求められます。

紅麹を、「伝統食品だから安全」とする科学的根拠は示されていないのです。