なぜ最初に過去問から取り組んだのか

受験とはまさに、私たちの前に立ちはだかる大きな「壁」ではないでしょうか。受験のためのカリキュラムに沿った授業もなく、塾にも通わなかった私には、大学受験を戦略的に考える必要がありました。

自分の人生において、いかに目の前の壁を乗り越えるのかは、当時、高校生だった私に与えられた大きな課題だったのです。もちろん、大学合格は最終ゴールではありませんが、目の前に立ちはだかる壁であることに違いはありません。その壁を突破しないと、人生の次のステップへと進めないのですから必死です。

私が最初にしたこと、それは受験に関する情報の「収集」です。まず、東大を受験するにあたって、「過去問はどんな傾向なんだろう」というところから始めました。

東大の赤本で過去問の分析に取り組んだのです。赤本を開いたときの「ああ、こういう問題が出ているんだ」という感覚は、いまでもはっきり覚えています。

各学校の赤本が並んでいる棚
教学社の発行する「赤本」(画像=しんぎんぐきゃっと/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

次に、東大入試の過去問を解こうとしたのですが、まったく解けない。「なんで、解けないんだろう」と不安になりました。そこで、自分の弱点を洗い出して、それらを克服していく手段を考えました。

具体的には、受験情報を収集して、過去問を解いて、結果を見て、それを評価する。これらの行程を繰り返して自分の課題を明確にしていきました。

受験をひとつのプロジェクトとして捉える

自分の課題がわかったら次はどうすべきかですが、自分ひとりの力ではさすがに限界があります。そのとき頼ったのが、塾ではなく参考書や問題集でした。東大入試の出題傾向を調べたうえで、書店に行って自分の弱点を補強するために役立つベストな参考書や問題集を探しました。

このように考えて取り組んでいくと、受験とは目の前の壁を乗り越えるために解決すべき1つのプロジェクトと捉えることができ、受験に打ち勝って合格するというのはそのプロジェクトを完成させる作業でもあると思えました。それは、私が取り組んでいたピアノの練習と似たものでした。

ピアノを本気で習得しようとしたら、教則本はまずバイエル、次にチェルニーというように、基礎から始めて徐々にレベルを上げていくのが一般的です。しかし、私はそうした王道の方法を選ぶことはしませんでした。

「この曲を弾きたい」と思ったら、「どうやったら弾けるようになるんだろう」と考えて、自分の弾きたい曲の分析から始めるのが好きなやり方だったからです。実際に弾いてみて、「この指の動きができない」ということがわかると、そこから「こういう練習をすればいいのか」ということに気づく。興味があることを積み重ねていくという練習でピアノと向き合っていました。

ピアノは、曲自体の構造を知ることで、演奏により深みが出るといわれています。自分が弾きたい曲の構造を理解するにはどうしたらいいのか、何の知識が必要なのか、それはコードの知識なのかといったことを一つひとつクリアしていく。まさに、1つのプロジェクトを完成させる作業に似ています。