親が賠償義務を逃れることはとても難しい

監督義務者である親は、責任能力のない子どもの生活全般について、その身上を監護し教育をすべき包括的な義務(身上監護・教育義務)を負っていると考えられています。こうした親としての監督義務は、保育園の中での出来事であり、その場に親自身はいなかったとしても、免除されるわけではありません。

なお、民法714条第1項但し書きには、一応、監督義務者がその義務を怠らなかったときや、監督義務を怠らなかったとしても損害が生じただろうときは賠償義務を負わない、ということも定められています。

ただし、この条文を使って親が賠償義務を免れるためには、監督義務を尽くしていたことを自ら証明しないといけません。そして、親が子どもに対して負っている監督義務の内容は、生活全般に及ぶとても広いものなので、親がこのように幅広い監督義務を十分に尽くしていた、あるいは、監督義務を尽くしたかどうかに関係なく子どもは同じ行為をしていたなどの事実を証明することは、現実的にとても難しいと言えます。

こうした事情から、責任能力のない子どもが不注意で誰かにけがをさせてしまったような場合には、親は、被害者に対する損害賠償義務を免れることはできないと考えておいた方が良いでしょう。

現在では、こうした場合に備えて、家族が第三者に損害を負わせてしまった場合の賠償金や弁護士費用を補償してくれる保険商品も多数登場しています。子ども同士の事故による、思わぬ経済的負担を回避するためには、こうした保険の利用も検討しておくとよいでしょう。

手をつないで森の階段を上っている母と娘
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保育園には安全配慮義務がある

保育園で起きた事故である以上、保育園にも何か責任はないのかという点は気になるところだと思います。

法律上、保育園は、単に乳幼児を預かって食事を提供するなどの保育をしていればよいというだけではなく、こうした保育中の乳幼児の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っていると考えられています。

そのため、保育園の中で子どもの安全が脅かされ、ケガを負うような事故が起きてしまったときに、もし保育園側が必要な注意をしていれば、そうした事故の発生を防ぐことができた場合や、事故のあと適切に対応していればもっと小さな被害で済んだ場合などには、保育園が園児に対して負っていた安全配慮義務に違反したのではないかということが問題となります。

そして、保育園に安全配慮義務違反がある場合、被害を受けた子どもの親は、保育園に対しても損害賠償請求をすることができます。