厳しい状況を乗り越えてこそ、さとりが開ける

逆にいうと、限界を超えなければその境地に達することはできないのかもしれません。私は「うぎゃあああああ!!!」を体験したからこそ、新しい境地を味わうことができました。

仏教の経典に「泥中の白蓮華」という話があります。さとりの象徴である蓮の花は、臭くて汚い泥の中から立ち上がってきて美しい花を咲かせます。

泥のない清流に蓮の花は咲かないことから、厳しい状況を乗り越えてこそ、さとりが開けると釈迦牟尼は言っているのです。

「うぎゃあああああ!!!」という状況になるからこそ、そこから相転移してさとりの境地に達する。初めから「全然いけますよ」というようでは、さとりを開くのは難しい気がします。

そう考えると、ブルシット・ジョブも取り組み方によっては、さとりを開くためのプロセスになり得るのかもしれません。

「これ以上はいけない」を自分で判断する

とはいっても、しんどい状況で頑張り続けて“社畜”のようになり、搾取され心身を壊してしまっては元も子もありません。その点は冷静に「これ以上はいけない」と自分で判断する必要があります。

ただ、心身の調子を崩してその仕事を辞めようと思っても「生活が」「世間体が」などという考えが頭をよぎります。「あの企業にお勤めなんですね、すごい」と周りから言われていればなおさら、心にブレーキをかけてしまうでしょう。私のところにも、そうした方がときどき相談に来られます。

ある若い方は、すごく頑張って苦労した末に、やっと憧れていた仕事を勝ち取りました。ところが職場環境が彼に合わず、うつ病を発症してしまったのです。

休職し、知人の紹介でうちにやって来たものの、私も「今の職場環境が心を壊す構造になっているので、その原因を取り除いてもらうよう会社に交渉するか、それが不可能であれば転職するしかないのでは」と、当たり前のアドバイスをすることしかできませんでした。

役員室の外でしゃがみ込むビジネスウーマン
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