多様な人と関わりながら生きるには何が必要か。僧侶の松波龍源さんは「近年増えている多拠点生活は、定住しないスタイルで生きていた古代インドの仏教者や思想家、修行者の多くに通ずるものがある。興味深いのは、当時仏教を支持したのは、ロバやラクダとともに、あるいは船に乗って国境を越え、異民族とも出会いながら移動しながら商売をしていた商人たちだったことだ。このことは、さまざまな価値観やバックグラウンドを持つ人たちと関わりながら生きる必要のある現代人の“よすが”になる」という――。
※本稿は、松波龍源『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
「家」を持たない女子大学生は、何を考えているか
パソコン1台あれば仕事ができるから、旅をしながら働く。あるいは、自然が豊かな場所に拠点をもう一つ設けてしばらく滞在し、滞在中はそこで仕事をする。
こうした「マルチハビテーション」と呼ばれる働き方が近年少しずつ増えてきましたが、それでも2010年代までは、それができるのはフリーランスやベンチャー企業の社員など、一部の人に限られていたと思います。
しかし新型コロナウイルス感染症の流行で、社会の認識が劇的に変わりました。たとえば、首都圏から地方都市に移住し、月の大半はリモートワークの生活をする。月に数回、商談や大事な会議のあるときだけ本社のある東京へ赴く。
歴史ある大企業など、会社に出勤するという“当たり前”を疑わなかった人たちの間にも、こうした働き方がじわじわと広がってきています。これは人類にとって、大きな転換点です。
寳憧寺に遊びに来てくれる大学生の中に、こうした時代の流れを象徴するような、とてもおもしろい取り組みをしている女性がいます。彼女は「家」を持たないのです。
大学生といえば一般的に、実家から通うか、大学の近くに下宿するなどしますよね。最近ではシェアハウスに住む人もいるでしょう。いずれにせよ「ここは私の家です」という場所があって、そこから大学に通ったり遊びに行ったりします。