「たかが、いびき」と放っておくと死に至る

私のクリニックでは「睡眠時無呼吸症候群」の患者さんが、かなりの数にのぼります。

改めて説明すれば、これは睡眠中に呼吸が止まる怖い病気です。

数秒間、窒息しているようなものですから、血液中の酸素が減って息苦しくなり、重症になると目が覚めてしまいます。

これを一晩に何回も繰り返すと睡眠の質が悪くなり、日中眠くなるなどでストレスがたまります。

するとホルモンや自律神経のバランスが乱れて心が整わなくなってしまいます。

加えて肥満や糖尿病になることも。

また、無呼吸によって血中酸素濃度が低くなると、高血圧、動脈硬化を起こしやすく、血糖値、コレステロール値が上がります。

心筋梗塞、脳梗塞のリスクも2倍から4倍。

中等症~重症で治療せずにいた人は、8年後に37%が死亡したとする報告(※3)もあり、寿命も短くなってまさに不健康ドミノです。

「たかが、いびき」と放っておくと死に至るこの怖い病気の患者さんは、推定900万人(※4)

しかし治療を受けているのはわずか50万人。

高齢者の6%~7%が睡眠時無呼吸症候群と言われています。

運動と食事制限だけでも改善が期待できる

日本人の場合、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの3分の2は肥満で、残りは生まれつき顎が小さいなど肥満以外が原因です。

治療は気道を広げて空気を送り込む「CPAP(シーパップ)」という器具を装着して眠ることですが、これは鼻から口を覆う大きなもので音もするため、できればつけたくないという相談も多くあります。

「大谷先生。彼女と旅行に行きたいですがCPAPを持っていくのはちょっと……」

30代の睡眠時無呼吸症候群の患者さんからそんな相談を受けると、私はすぐにウォーキングをすすめます。

運動と食事制限をしてメタボを解消するだけで、睡眠時無呼吸症候群はかなり改善するからです。

ちなみに先の患者さんはウォーキングで20キロのダイエットに成功。

標準体重になって、睡眠時無呼吸症候群を克服しました。

こうした患者さんは他にも多くおられます。

生まれつき顎の小さい人は別として「メタボで無呼吸」という人は、ぜひウォーキングで体重を減らしてみてください。

きっと不眠や自律神経の乱れも治ることで心が整い、身軽な旅行も楽しめます。

【参考文献】
※3 He J, et al. Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients. Chest1988 Jul;94(1):9-14.
※4 佐藤 誠. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学. 日内会誌 2020;109:1059-1065