地方から「日本の未来」が見える

【古屋】冨山さんは地方のバス会社をたばねるグループ企業の経営も行っていらっしゃいます。労働供給制約を見越して、先行して賃金を上げたりしたのでしょうか。

【冨山】うちは東北地方の会社が多いのですが、東北地方はずいぶん前から人手不足で、人材確保のために賃金を上げています。そういう意味では、東北地方は他の地域よりも早く人口が減り、いま日本が直面している転換点を10年近く前に迎えています。

まず若い人がいなくなることで社会減(転入よりも転出する人口が多いこと)が起き、その後に出生数が減って自然減(生まれた子どもの数が亡くなる人の数を下回ること)が起きた。だから、人口ピラミッドがすごい逆三角形になっているんです。そう考えると、「日本の将来像」はじつは東北なんですよ。

【古屋】間違いないですね。

【冨山】そういう状況になっているので、生産性を上げて、できるだけ処遇・待遇をよくしていかないとダメなんです。マーケットシェアは運転手の数で決まります。「需要」ではなくて「供給力」で競争力が決まってしまうんですよ。

古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)
古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)

【古屋】そうなんです。でも、少し前までは逆だったわけですよね。「需要が足りない」と言っていた。変わってしまったんですよね。労働供給制約はいまや、地域や業種に関係なく日本全体で起きています。

【冨山】日本はこれまでの約30年間、デフレのもとで需要制約を続けてきてしまっている。30年というと1世代です。みんなもう、頭のてっぺんから足のつま先まで「需要が足りない」というデフレ思考が染み付いていて、人が余っているから低賃金・長時間労働で低価格競争をする癖がついてしまっている。そこから全部が丸々ひっくり返ってしまうわけですから、この転換は相当大変ですよ。

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