低賃金労働者に依存してはダメな理由

【古屋】地方に行くと、やはり安価な労働力として外国人の話がよく出てきますよね。私は中長期的な解決策として低廉な労働力としての外国人労働者の受け入れを提唱していません。なぜならば、それは結局のところ賃金競争になるからです。

東アジアのなかで、中国、韓国、台湾、オーストラリアなどと、ベトナム、インドネシアの若者を取り合う競争になったとき、結局は賃金や待遇をどれだけ引き上げられるかの競争となる。日本はこの競争に勝てるのか、と。

【冨山】労働供給制約の問題は、チープレイバーを入れても解決しないと思います。たとえば、海外のアンスキルド(特別な技能を持たない)、アンエデュケーテッド(十分な教育を受けていない)なチープレイバーを“移民型”で入れてしまうとどうなるか。生産人口1人に対して、非生産人口の人が3人も4人もついてきてしまうんです。

【古屋】家族で来るんですよね。

【冨山】しかも日本語を話せないとなると、かなり難しくなります。生産性の向上に貢献するどころか、むしろ社会的には重荷になってしまう。教育コストはもちろん、その社会に住んでいる以上は社会保障の対象にもなってくるので、トータルで見るとお互いがアンハッピーになる。それがいま、ヨーロッパで起きているいろいろな問題の背景にあります。

【古屋】労働力として受け入れる、という話だけではない。

【冨山】人手不足だからといって、「外国人を低賃金で雇えばいい」という単純な話ではないんです。外国人労働者に定住型・永住型の労働力として入ってきてもらおうと思ったら、スキルドレイバー型にすべきなんです。アンスキルドな人材を入れてしまうと、結果的にチープレイバーに依存しないと経営できない企業・産業を残すことになってしまいます。生産性の低い産業は、はっきりいっていまの日本には必要ないんです。社会の持続性も危うくしますし、経済成長にも貢献しません。

【古屋】短期的な低廉な労働者受け入れが企業の生産性向上の足を引っ張る懸念もあります。

【冨山】そうです。だからこそ、チープレイバーに頼る政策を国が安易にとるべきではないんです。むしろ賃金や生産性の向上を後押しするのが、経済成長的にも社会の持続性という意味でも正しい。つまり、「ちゃんと正攻法でいきましょう」ということです。

ノンデスクワーカーはAIで代替できない

【古屋】「労働供給制約」に直面したいまの日本に私が期待しているのは、賃金が上がることで設備投資に対する相対的コストが下がり、設備投資が進んでいく未来です。

【冨山】実際、徐々に活発になってきていますよね。

【古屋】直近の企業の設備投資額が過去最高となるなど動きは徐々に出ています。設備投資がうまく進めば、また生産性が上がって賃金を上げられます。この“好循環”を起こすチャンスだと思っているんです。

ただ一方で、最悪のシナリオもちらつき始めています。「設備投資をしたくても人手が足りない」という問題です。ラインを入れ替えたり、新しい機械を入れたりしてもそれを担える働き手がいないので、「設備投資を来年に先送りしよう」という設備投資の計画未達の問題が顕在化してきているんです。投資できる金額が膨らんでいるのに、計画にまったく到達できていない。

【冨山】もっとマクロな視点で見ると、日本の社会全体では、ホワイトカラーはじつは余っているんですよ。AI、特に生成AIがホワイトカラーの代替材になってきている。その傾向はこの後、ますます強まっていくはずです。

【古屋】そうですね、ChatGTPなども大きな話題になっています。ただ、私は生成AIでは医療や介護、建設現場、物流といった生活維持サービスの担い手をほとんど助けられないという点を懸念しています。

【冨山】そうです。建設系をはじめとするノンデスクワーカーは、じつはAIで代替できないんです。ロボットで簡単に代替できると思うかもしれませんが、よほど定型的なものにならない限り、ロボットではペイしない。人間ってやっぱり、器用でよくできた生き物なんです。